そして太政大臣・橘文弘は、宮中で依楼葉の父・藤原照明に会った。

「これはこれは、関白左大臣殿。」

「太政大臣殿。」

いくら政治を司る関白でも、太政大臣には敵わない。

藤原照明は、その場で橘文弘に、一礼をした。


「ところで、関白左大臣殿には、姫君がいらっしゃるようですね。」

「えっ、ええ……」

まさか、依楼葉が女の成りに戻った事に、早速気づいたのか?と、父・藤原照明は慌てた。

「姫君は、宮仕え等致す気はございませんか?」

「宮仕え!?と、とんでもございません!」

藤原照明は、扇を持ちながら、腕をブンブンと横に振った。

「我が娘は、粗雑で荒っぽくて、とてもとても宮仕えなど、勤まる者ではございません!」

ゼーゼーと息を吐く藤原照明に、橘文弘は優雅に答える。

「ほう。では、ご親戚宅に行儀見習いに出したのも、その為だったのですね。」

「えっ!あっ、いや、はい……」