さて、その紙を返事として持って帰った使いの者は、帝にその紙を渡した。

「これを、姫君が?」

「はい。」

五条帝は、紙を広げた。

そこには、線の細い女らしい御手が、施されていた。


かきくらす 心の闇にまどひにき
夢うつつとは こよいさだめよ

(どうやら、暗い闇に迷ったようです。夢か現実かは、今宵決めて下さい。)


「心の闇に……まどひにき……」

一見、私にも分からないと、冷たい返事。

「これは、本当に姫君が、したためた物なのか。」

「はい。佐島と言う者が、そう申しておりました。」

「佐島?」


そう言えば、姫君と枕を交わした夜、姫君の使用人の中に、佐島と言う者がいた。

そして、五条帝はもう一度、その返歌を見た。

「生きている。和歌の姫君は、生きているんだ。」

そして、最後の言葉にも、帝は目を凝らした。

「こよい、定めよ……確か、古今和歌集では、『世人定めよ』だ。今宵定めよ……」