君や来こし 我や行きけむ

思ほえず 夢かうつつか 寝てか覚めてか

(あなたが逢いに来られたのか、私が逢いに行ったのか、覚えていません。夢だったのか現実だったのか、寝ていたのか醒めていたのか。)


帝だ。

この桜を黒い箱に詰めたのは、桜の君、帝だ。

依楼葉は、胸が潰れそうになった。


帝は、まだあの夜の事を、忘れられないのだ。

そして、咲哉が亡くなった事を知って、あの夜の相手は、まだいるのか知りたがっているのだ。


もう会う事はできない。

でも、せめて知らせたい。

自分はまだ、生きている事を。


「佐島。これを持って来てくれたお方は、まだいますか?」

「はい。お返事があったら、持って行くと待たせております。」

依楼葉は、急いで紙に返歌をしたためた。


「これを、その使いの者に。」

依楼葉は、急いで書いた紙を、佐島に渡した。

「はい!しっかりと。」

佐島は、嬉しそうに紙を持って行った。