それから、しばらく経った夜の事。

佐島が、依楼葉の部屋の前に、やってきた。

「どうした?佐島。」

「姫様。今ある方の使いだと言う者が、姫様にこれを渡して下さいと。」

佐島は、黒い箱と一枚の紙を、依楼葉に渡した。

「ある方?」

「何でも、立派な服装の方ですよ。」

依楼葉は、紙を側に置き、黒い箱の中を開けた。


そこには、たくさんの桜の花びらが、箱中に詰まっていた。

「まあ……」

これには依楼葉も、驚きのあまり、言葉もなかった。

「へえ。もしかして、宮中の方ですかね。」

「どうして、宮中だと分かるのです?佐島。」

佐島は、桜の花びらを一枚だけ、手に取った。

「やっぱりだ。宮中には、帝の命で桜の花びらを、冬の時に積もった雪で、保存しているって話ですよ。ほら、ひんやりしているでしょ?」


宮中、帝の命、桜……

依楼葉はハッとして、紙を広げた。

そこには、柔らかな御手で、歌がしたためられていた。