ここいら辺で、自分も政治の一片を握ってみたいと思うのだ。

しばらくして、どこかく行っていた供の者が、戻ってきた。


「ご主人様。やはりあの姫は、左大臣家の姫君でした。」

「ほう。」

「春の中納言殿が亡くなって、家に戻ってきたそうです。」

太政大臣・橘文弘の目の色が変わった。

「そうか、そうか……」

恐れていた事が、現実になる前に、手を打たなければならない。


「そう言えば、桜子のところは女房が一人、足りないと言っていたな。」

「はい。」

「もう、当ては見つかったか？」

「いえ。決まったとは、まだ聞いていません。」


橘文弘は、扇で口元を隠した。

「ふふふっ。面白い程に、好機が舞い込む。政治を握ると言うのは、こういう好機も逃さぬことよ。」

橘文弘は、顔を扇ぎながら、不適な笑みを浮かべた。