「くくくっ……」

すると帝は、突然笑いだした。

「お上?」

「いやいや、許して下さい。弓矢も恐れぬあなたなのに、私の顔を見て、頬を赤らめるとは……」

依楼葉は顔を隠す為、扇を探したが、辺りにない。

すると帝は、その隙をついて、御帳台をまくり上げた。


涼しげな目元に、スっと伸びた鼻筋。

鮮やかな朱色の柄の上衣を着た帝は、夢から出てきたかのように、美しかった。

依楼葉は、扇を探すのも忘れて、帝に目を奪われた。

そして帝は、御帳台から手を放すと、依楼葉の側までやってきて、結い上げていた依楼葉の髪を、そっと下ろした。

「ああ、はやり……あなたは、あの時の姫君だ。」

「お上……」

依楼葉は、目に涙が溜まっていた。


あの時に、一瞬で恋に落ちた相手が、再び目の前にいる。

「やっと、会えた。和歌の姫君。」

知らない間に依楼葉は、帝の腕の中にいた。

ほんのりと、桜の香が薫る。