最後に依楼葉に会いに来たのは、五条帝だった。

「少し、宜しいかな。春の中納言。」

帝の登場に、周りは全ていなくなってしまった。


「病になったと聞いた。」

「はい。実は、治ったと思っていた流行り病が、ぶり返したようでございます。」

依楼葉は、顔を見られないように、顔を伏せた。

「なんと。薬師に見て貰ったか?」

依楼葉は、息を飲んだ。

「え、ええ……」

本当は仮病なのだから、薬師もない。


「そうか。」

帝は、少しだけ依楼葉に近づいた。

「毎日、朝と夜、そなたの回復を、神に祈る。」

「お上……」

依楼葉はたまらずに、顔を上げた。


「そうしていると、病である事が嘘のようだ。」

あっ、いけないと、依楼葉はまた顔を伏せる。

「どんな状態でもよい。また、宮中に戻って来なければ、許さぬぞ。」

「……有難いお言葉……身に沁みます。」


生まれて初めて、一目惚れをした人。

もう、この方とも会う事はないかもしれない。