そして、隼也は蔵人の頭に会った。

蔵人の頭、頭中将は、夏の君・橘厚弘である。


「頭中将殿。今日からお世話になります、息子・隼也でございます。」

父・藤原照明は、橘厚弘に頭を下げた。

「宜しくお願い致します。」

隼也は、各段緊張している様子もなく、落ち着いた挨拶をした。


「ほう。これはこれは。関白左大臣殿は、春の中納言の他に、このような爽やかな子息を、隠していたのか。」

橘厚弘は依楼葉同様、隼也の事も気に入ってくれたようだ。

「どうぞ、末永くお導き下さいませ。」

父・藤原照明は余程心配なのか、何度も何度も、頭を下げた。


そんな父に、夏の君・橘厚弘は、ニコッと微笑んだ。

「大丈夫ですよ、父君。」

橘厚弘は、敢えて関白左大臣を呼ぶ事を避けた。

位の高い関白左大臣が、目下の自分に頭を下げるなど、父としてお願いしている他にはないと、察したからだ。