その夜。

父・藤原照明と母・東の方は、涙にくれた。

「咲哉……咲哉……」

「我が家から、光が消えてしまったようだ。」

ただ一人依楼葉だけが、青白くなった咲哉を、じっと見つめていた。


「西の方には、何と伝えればよいのでしょう。この子に恋慕って、実家からこの左大臣家に来てくれたと言うのに。子も成してやらずに、また右大臣家に戻す事になるなんて。」

東の方は涙ながらに、夫を失った桃花を気遣った。


「その前に、左大臣家はどうすればよいのだ。我が代で左大臣家が潰れてしまうとは……」

跡継ぎを失った父は、居ても立ってもいられない程に、困っていた。

「いや、もしかしたら……」

急に父が、立ち上がった。

「我が代も、危ういかもしれん。」

「えっ?」

東の方は、口元に手を当てた。

「実は他にも、頭角を現している貴族が、いくつか出てきているのだ。跡継ぎを失ったと分かれば、私は左大臣を奪われるかもしれない。」