賢い姫。

産まれてから一度も、姫扱いなどした事がないのに。

「咲哉……」

「どうした?依楼葉。」

「死なないでほしい。」

咲哉は、依楼葉を抱きしめた。

かぎりなき 雲居のよそに 別わかるとも
人を心に おくらさむやは
(はてしない雲の彼方のように遥か遠く隔てられようとも、あなたを私の心から後らせることなどしようか。)


「私がこの世からいなくなっても、依楼葉。そなたを決して忘れない。たった一人の、私の片割れなのだからね。」

「咲哉……」



その夜。

左大臣・藤原照明の一人息子。

世の中の女性を虜にした、中納言・藤原咲哉は



静かに、息を引き取った。