依楼葉と右大臣・藤原武徳が立ち上がろうとした時だった。

「春の中納言。少し、残ってはくれまいか?」

五条帝が、依楼葉を引き留めた。

「春の中納言。私は先に、行っているぞ。」

右大臣・藤原武徳は、依楼葉をちらっと見ると、早々に帝の前から去って行ってしまった。

もう一度座り直す依楼葉に、五条帝は蔵人にも、去るように伝えた。

返事をして、依楼葉を見ながら昼の御殿を去る蔵人。


すると五条帝は立ち上がり、御簾納を出ると、依楼葉の隣に座った。

緊張する依楼葉。

下げた頭を、戻す事ができない。

「そう、固くならなくてもよい。ただ……話がしたいと、思うただけだ。」

「はい。」

依楼葉は、一、二の三で、頭を起こした。


その様子を見て、五条帝が微笑んでいる。

依楼葉は恥ずかしくて、軽く下を向いた。

「肩の傷、良くなったと聞いたが、痛みはあるか?」

自分を気遣う帝に、依楼葉は少しだけ、緊張が解ける。