さて、どんなに悩ましい事が起っても、中納言としての務めは果たさなければならない。

その日の勤めは、叔父であり義理の父でもある、右大臣・藤原武徳について、帝の元へ参る事だった。


「そう言えば、春の中納言。野行幸の時の肩の傷、もう大丈夫なのか?」

右大臣。藤原武徳は、いつも依楼葉を可愛がってくれる。

無論、藤原咲哉として。

「はい。養生しましたので、傷は癒えております。」

「そうか。冬の左大将から聞いたが、帝を庇って肩に傷を負ったそうだな。」

依楼葉は、あの時の事を思い出した。

”逃げて下さい”と叫んだかもしれないが、そう言う話になっているのか。


「今日の勤めも、帝の覚え目出度いそなたに付いて貰って、助かった。」

そう言って貰えると、依楼葉も努力した甲斐がある。

「……とんでもございません。今日の勤めも、精一杯務めさせて頂きます。」

依楼葉は立ち止まって、頭を下げた。