「えっ……」

依楼葉は、一瞬言葉を失った。

「咲哉が亡くなって、跡継ぎがいないとなった時に、本来はそうするべきだった。そうしておれば、そなたは……」

「お止め下さい、父上様。咲哉になると決めたのは、我が意志でございます。」

依楼葉は、今にも泣きそうな表情をしていた。


「だがな、依楼葉。父があの時に、咲哉になる事を止めていたら、そなたは……」

父も、泣きそうだった。

「そなたは……今頃、帝と……」

父は、目頭を押さえた。


「……聞いていたのですか?天幕でのお話を。」

「すまぬ。聞くつもりはなかったのだが、話が話だけに、つい……」

涙を拭く父を横に、依楼葉は庭眺めた。

もう桜の花は、全て散ってしまった。


「父上様、ご覧になって下さい。桜の季節は終わってしまいました。」

父も、庭にある桜の木を見た。

「同じように、我の恋も終わってしまったのです。」