野行幸の一件以来、依楼葉はこのまま咲哉の振りをしていて、いいものか悩むようになった。

帝に、女である事を知られた。

もしかしたら、故意に世間を欺いたとして、処罰されるやもしれない。

もう一つは……


- あの花見の祝宴から、あなただけを恋い慕ってきた -


帝の、あの熱を帯びた言葉。

あの言葉を思い出す度に、胸が締め付けられ、居ても立っても居られなくなる。


そんな時、父・藤原照明が、依楼葉の部屋を訪れた。

「入ってもいいかな。」

「父上様……どうぞ。」

まだ男の成りをしている依楼葉の前に、父は黙って座った。

何の用件かと、依楼葉が父と目を合わせた時だ。


「依楼葉。今日はこれからの事を、そなたと話したいと思って参った。」

「はい。」

これからの事。

依楼葉は、胸騒ぎを覚えた。


「依楼葉。心して聞いてほしい。私は、関白左大臣を辞めようと思う。」