そして今度は咲哉の方が、依楼葉の腕をそっと掴んだ。

「依楼葉。顔を上げてくれ。」

そうは言っても、依楼葉は顔を上げない。

「もし我が死んだら、西の対にいる桃花は、右大臣家に引き取られよう。我らには、子はおらぬでな。」

「これから、産まれるではないか。」

依楼葉の言葉が、虚しく響く。


「その上、右大臣家にも太政大臣家にも、姫君ばかりで、目ぼしい貴族はいない。だからなのだ、依楼葉。そなたがこの者だと思う方を、左大臣家の婿にし、三大臣家を盛りててほしいのだ。」

「その必要はない!」

叫ぶ依楼葉の両肩を、咲哉が掴む。

「お願いだ。落ち着いて聞いてくれ、依楼葉。そなたにしか、頼める者はおらぬのだ。」

依楼葉の目から、ボロボロと涙が零れる。

「代々続いているこの左大臣家を、父の代で終わらせては、いけないのだ。分かるな、依楼葉。」

「……分かる。」

「さすがは、依楼葉だ。賢い姫だ。」