依楼葉は、顔を上げた。

そこには、あの日恋に落ちた五条帝が、目の前にいた。

「……恋慕う人を、間違える訳がないでしょう。」

依楼葉の瞳に、五条帝が映る。


目の前にいるのは、中納言として仕える帝ではなく、依楼葉が恋慕う桜の君だった。

「……父上殿の天幕が宜しいのなら、私がお連れ申す。」

「お上……」

五条帝はそれ以上何も言わず、依楼葉の馬と並んで、父である関白左大臣の天幕まで、連れて来てくれた。


「は、春の中納言!?」

父である藤原照明は、肩から血を流し、真っ青になっている依楼葉に驚いた。

すると一人の公達が、馬から依楼葉を、降ろさせた。

「父上殿。お酒はあるか?」

「えっ?」

よく見ると、それは五条帝だ。

「お、お上!?なぜこのような場所に!?」


五条帝は何も言わずに、依楼葉を抱きかかえると、天幕の奥に寝かせた。

そして左大臣家の使用人が持って来たお酒を、手に取った。