こうなったら、父を頼るしかない。

依楼葉は残った意識で、父の天幕の方を向いた。

「春の中納言!無理をするな!」

五条帝の伸ばした手が、依楼葉の腕を捕らえる。


その瞬間、依楼葉は目を大きく見開いた。

この場面、似ている。

花見の祝宴で、帝に手を取られた時と。


だがそれは依楼葉だけではなく、五条帝も同じ事を、感じていたらしい。

「そなたは……」

五条帝は、依楼葉の腕を引き寄せた。

「あの時の……和歌の姫君か?……」


知られた!?

よりによって、帝に!?


依楼葉は、顔を反らした。

「何を仰せです。私は中納言・藤原咲哉です。」

「いや、似ている!」

「妹とは双子ゆえ、同じ顔をしているのです。」

依楼葉が腕を払いのけると、今度は五条帝が抱き寄せた。


「お放し下さい!」

「大人しくしていろ!傷が広がる!」

「私は、大丈夫です!」

「中納言!!」