弓は、見事獲物の命中した。

「お見事!」

近くで拍手を送っていたのは、冬の左大将・藤原崇文だった。


「さっきの一声は、冬の左大将殿か?」

「如何にも。どなたかが、二の足を踏んでいたのでな。」

「あっ、言ったな!」

依楼葉は、夏の右大将・橘厚弘とも、仲良くなりたかったが、冬の左大将・藤原崇文とは、もう既に友人の仲であるような気がした。


そんな事を思いながら、辺りを見回すと、先程までいた夏の右大将・橘厚弘の姿が見当たらない。

「夏の右大将殿?」

「どうした?春の君。」

相手の冬の左大将・藤原崇文は、既に友人気どりだ。


「いや、夏の右大将殿の姿が見えなくて……」

「本当だ。獲物を見つけたのだろうか。」

冬の左大将・藤原崇文の言葉に、依楼葉は馬を反対に向かせた。

「冬の君。私は、夏の右大将殿を探してくる。」

「ああ!」

依楼葉は、夏の右大将・橘厚弘を探して、狩場の森を駆けた。