帝直々にそう言われてしまえば、受けるしかない。

「……本人に、伝えてみます。」

関白左大臣の答えに、太政大臣・橘文弘は扇の裏で、微笑んだ。


その日の夜。

父・藤原照明は、務めが終わって帰って来た依楼葉に、この一件を話した。

「はい!喜んで、お受け致します。」

依楼葉は、やけに嬉しそうだ。

「依楼葉、大丈夫なのか?男に混ざって、狩りに行くとは。」

「ご心配なく、父上様。弓矢でしたら、幼い頃から咲哉と共に、鍛錬してきました。」

「そうで……あったな……」

小さい頃、あまりの腕の良さに、”左大臣家には、男の子が二人いるようだ”と言われていた。

だがそれでも、父は心配で仕方がない。

「……今のうちなら、病だと申して、断る事もできるぞ。」

「父上様。後々は左右の大将のいづれかになる者と、そこまで言われましたら、退くは咲哉の評判を落とします。」

「うーん……」

今回ばかりは、折れるしかないと思う父だった。