「何ともお労しい。流行り病から戻ったのだ。それくらい変わったとて、さほど不思議ではなかろうに。」

流行り病で死んだと言う話は、飽きるくらいにある。

反って、回復する方が珍しい。

そんな大病を乗り越えてきたのだから、多少変わっても、誰も何も気にしないだろう。


「それが、お体がやけに細くなったとか。」

「病をしている間に、肉が落ちたのだろう。」

「後は、お声がなんとなく、高くなったとも。」

「病で、喉を潰したのか。」

「そうそう。お顔立ちも、前より女らしくなられたと。」

それには、橘文弘も手を止めた。


「女……らしく?」

「ええ。でも、それも気のせいのようですね。女房達の話では、一層艶やかになられて、目の保養にいいそうですよ。」

妻はそう言うと、空になったお酒を持って、足しに行ってしまった。


「まさかのう……春の中納言が、女である訳がない。だが、今のうちに出る芽は、潰しておかねば……」