ある日の事。

依楼葉が、いつものように咲哉を見舞うと、珍しく床の上で、起き上がっていた。

「咲哉。」

「ああ、依楼葉か。」

陽に照らされた咲哉の顔は、老人のようにやつれていて、あの世の中の女達を虜にした、今をときめく中納言の面影もない。

それは、誰よりも咲哉を誇りに思っていた依楼葉の、この上ない悲しみだった。


「今日は、具合がいいようだね。」

「ああ。」

「この調子で、治っていくだろう。少しずつ少しずつ、昔の輝きを取り戻していけばいいなぁ、咲哉。」

依楼葉がそう言うと、咲哉はふと笑った。

「昔の輝きとは、中納言であった時の事か?」

依楼葉は、咲哉の腕を掴んだ。

「何を申す?咲哉は今でも、中納言ではないか。」

「依楼葉。中納言とは、我一人ではない。他の中納言殿達が、我などいなかったかのように、穴埋めをされていよう。」

「咲哉!!しっかりしろ!弱気になって、どうする?」