帝に連れられて宮中へやって来た当時から、斎は「少女のような顔立ちの童だ」と周囲の大人達を和ませていた。

 花琉帝は即位してまず、斎を童殿上(わらわてんじょう)(※元服前の子供を昇殿させ仕えさせること)させ常に手元に置いた。三年前の元服の儀では、帝が自らの手で冠を被せてやるなどその扱いは格別であった。さらに斎が近衛府(このえふ)の武官となった際には、唐伝来の美しい宝剣を下賜するという寵愛ぶりである。

 いつしか武官と蔵人を兼ねるようになった斎は、“帝から授けられた唐太刀(からたち)を帯びた君”と呼ばれ――それが転じて柑子(みかん)の一種である“からたち”になぞらえ、「枸橘(からたち)の君」と呼ばれるようになっていた。

 だが――

 その“女子(おなご)のような枸橘の君”が、実は本当に“女”である、という事実は、今や宮中では公然の秘密となっていた。

 斎は元服して正式に出仕する齢になっても、相変わらず背は伸びず声変わりもしなかった。それでも当初、女房達は「可愛らしいこと」などと言ってちやほやしていたのだが。
 それから更に三年経った現在、もはや彼女が男だと信じている者はひとりもいない。唐太刀を帯びた男の姿をしていても、彼女の伸びやかな新芽のような美しさは少しも隠れるところがなかった。

 ところが斎本人はあくまで男子として振る舞い、真面目に職務に励んでいる。実はとっくに周囲に女だと看破されているなどと思ってもいない様子である。
 その姿があんまりまっすぐでひたむきだから――何より帝がそれを良しとしているものだから、誰もその事実を指摘できずにいる。