――わたし・篠沢絢乃が正式に会長に就任して、早くも一ヶ月が経過していた。

 わたしは高校生活と会長の仕事をちゃんと両立させられるようになっていた。とはいえ、その仕事は各部署から届く決裁の必要な案件メールに返信したり、各部署を激励がてら視察したりする程度。

 彼は母と約束したとおり、朝からは母の秘書として仕事をして、わたしの学校が終わる頃に車で迎えに来てくれて、それからはわたしの秘書として働くという、わたし以上になかなかハードな日々を送っていた。

 けれど、そんな簡単な仕事ばかりしていても、会長としての信用を勝ち取れるかどうかわたしには分からなかった。――もちろん、それも大事な仕事であることに変わりはないのだけれど。
 というわけで、この頃にはわたしなりに会社のためにやるべきことを考えるようになっていた。

「――桐島さん、わたしね、そろそろ本格的に会長としての仕事に励もうと思うの。それでね、この会社の中でいくつか改革したいことがあって」

 放課後に出社したわたしは、会長室のデスクのパソコンに繋がれたプリンターから吐き出された一枚のコピー用紙を彼に見せた。

「改革……ですか? ――拝見します。えーと、どれどれ……」

 その紙を受け取った彼は、戸惑いながらわたしがパソコンで書きだした内容ひとつひとつに目を通し、そこで浮かんだらしい疑問点をわたしにぶつけてきた。

「……えっ? お誕生日のパーティー、今年から廃止されるんですか? まあ、今年はまだ喪中だから中止するというのは分かるんですが……」

「うん。わたしが喪中だからっていうのも、もちろんあるけど。組織のトップとはいえ、いち個人の誕生日をわざわざ会社の経費を使ってまでお祝いしてもらう必要はないんじゃないかと思ったの。それこそ公私混同も(はなは)だしいし、経費のムダ遣いだから。そんなことに使う予算があるなら、もっと他のところに予算を割いた方が会社のためになるでしょ?」

「はぁ、なるほど……」

 この本社で行う会長の誕生日パーティーは、元々が父の同僚だった有志のメンバーで始めた会。それがいつの間にか会社の行事のようになってしまい、出席か欠席かで出世にも影響が出るなんて、ほとんど会社ぐるみのパワハラのような状況になりつつあった。
 そのことを、わたしはもちろん生前の父も以前から嘆いていたのだ。

「お誕生日は、個人的に祝ってもらえればわたしはそれで十分だから」

「……会長、それって僕に対するプレゼントの催促ですか?」

 彼にツッコまれ、わたしは自分の発言がヤブヘビだったと気がついた。