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 ――〈篠沢商事〉ビルに着き、地下駐車場で彼の車を降りると、わたしたち三人はそのままエレベーターで株主総会が行われる二階の大ホールへ上がった。

 このホールはその三ヶ月ほど前、父の最期の誕生日パーティーが催された会場であり、父が倒れた現場でもあった。
 けれどその日のホール内は華やかな雰囲気ではなく、大勢の株主やグループの役員・社員たちが集まっていて、ものものしい雰囲気だった。

『――みなさま、本日はお寒い中大勢お集まり下さいましてありがとうございます。ただいまより、緊急の株主総会を行います』

 司会を務める総務課の男性社員のマイク越しの声が、ステージ袖に控えるわたしの気持ちをピリッと引き締めた。――ちなみにこの男性社員は、彼の総務課時代の同期らしい。

 それと同時に、ただならぬ緊張感も襲ってきて、わたしは息をするのも忘れて、裾に赤いラインが入ったダークグレーのプリーツスカートをグッと握りしめたままステージを凝視していた。

「絢乃さん、……もしかして緊張されてます?」

 わたしの緊張を感じ取ったのか、彼が後ろから優しく声をかけてくれた。

「……えっ? うん……。わたし、ちゃんとスピーチできるかしら?」

「いよいよですもんね。心配されるお気持ち、僕にもよく分かりますよ。――あ、そうだ! 緊張を(ほぐ)すおまじない、お教えしましょうか」

「……お願いできる?」

 明るくわたしを励まそうと提案してくれた彼に、わたしは素直に甘えてみようと思った。

「はい。僕も子供の頃からあがり症だったんで、母が教えてくれたんですけど。客席にいる人たちをジャガイモとかカボチャだと思えばいいんだそうですよ」

「ジャガイモ……」

 わたしはその光景を思わず想像してしまい、客席に畑のように大量のジャガイモやカボチャが並んでいる姿を思い浮かべた途端、肩を震わせて笑い出した。

「やだもう、おっかしー! フフフッ!」

 彼が笑わせてくれたおかげで、わたしの緊張はどこかへ飛んで行ってしまっていた。

「……絢乃さん、今日やっと笑ってくれましたね。やっぱり、あなたの笑顔はステキです」

「…………え」

 彼が珍しく歯の浮くようなセリフを言ったので、わたしは一瞬ポカンとなった。でも、わたしを笑顔にしてくれたのは彼。本人には自覚がなかったようだけれど。

「……ありがと。貴方のおかげよ」

 わたしは清々しい笑顔で、彼に素直にお礼を言った。

「もったいないお言葉、ありがとうございます。……もう、大丈夫ですね」

『――ではここで、本日より新会長に就任されました、篠沢絢乃さまよりご挨拶を賜ります。篠沢会長、お願いします!』

 彼がわたしの目を見てそう言ったのと、司会者にステージまで呼ばれたのはほぼ同時だった。

「うん、大丈夫よ。じゃあママ、行こう!」

 わたしは母と一緒に、堂々と胸を張ってステージへと歩いて行った。