ムキになったその親族は、自分の言い分の正当性を確かめようと、()丈高(たけだか)に言い放った。

 母のやり方に反発している勢力の人たちはみんな一様に大叔父を推していたけれど、その中で一番最初に反対意見を出してくれたのは、〈篠沢商事〉本社の社長・村上(ごう)さんだった。

「僕は、絢乃お嬢さんが会長になって(しか)るべきだと思いますけどね」

「村上さん……、ありがとう!」

 思わぬ援護射撃に、母の表情は明るくなった。わたし自身も、「新会長は大叔父」という流れに傾きかけていたのが、彼のこの意見で変わるかもしれないと思った。
 というのも、村上社長は営業部時代の父の同期で、気の合う友人同士だったのだ。お互い結婚して家庭を持ってからも、彼の家族とわたしたち親子三人は家族ぐるみの付き合いをしていて、当然ながらわたしのことも幼い頃からずっと見てくれていた。母とわたしにとっては、その会議の場では誰よりも強い味方だったのである。

「君、それはもちろん、根拠があって言ってるんだろうな?」

 居丈高な親族は、高圧的な態度を崩さないまま村上社長に詰め寄った。――自分たちは、「最年長だから」という根拠だけで大叔父を擁立したというのに。

「もちろんありますよ。第一に、彼女が前会長である篠沢源一氏の実子であること。それは血縁者による世襲という意味だけでなく、彼女が源一会長のトップとしての姿勢をずっと身近に見てきからこそです。彼女ならきっと、立派にリーダーを務めあげることができるでしょう。
 第二に、源一会長ご本人が、遺言書で正式に彼女を後継者として指名していること。そして先ほど、ご本人も会長就任のご意思をここで示されました。この遺言は、法的に有効なものです。法の下に指名された後継者が新会長に就任することが、最も道理に適ってるんじゃないでしょうか」

 村上社長はあくまで冷静に、理路整然と自分の意見を述べた。これにはさすがに他の親族も、もちろん彼に高圧的な態度を取っていた彼も、ぐうの音も出なかった。

「――村上さん、貴重なご意見をありがとう。他にご質問・ご意見等がないようでしたら、ここで採決に移りたいと思います。まず、篠沢兼孝氏が新会長にふさわしいと思う方、挙手をお願いします」

 これには、母に反発する勢力の人たち数人がバラバラと手を挙げた。

「次に、篠沢絢乃が新会長になるべきだと思う方、挙手をお願いします」

 わたしはビックリした。夢じゃないかとさえ思った。この会議に出席していたほとんどの人が、わたしを新会長に選んでくれたから。
 わたしの想像だけれど、多分みんな、村上社長の演説に心動かされたのだと思う。彼には今も、本当に感謝している。
  
「――というわけで、新会長は多数決により、篠沢絢乃に決定致しました」