――それから約三十分くらいで、わたしたちはオフィスビルに到着した。
「僕は会議には参加できませんので、とりあえずどこか近くで時間を潰してますね。会議が終わり次第、またご連絡頂ければお宅までお送りします」
地下駐車場でわたしと母を車から降ろした彼は、一般社員なので取締役会には出席できなかった。そのため、彼だけ別行動を取ることになったのだけれど。
「ありがとう、桐島くん。帰りはいいわよ。ウチの運転手に迎えに来てもらうから。ただでさえ今日は休日出勤してもらってるんだし、あなたは帰ってゆっくり休みなさい」
この日は、実は土曜日。当然ながら会社はお休みだったので、彼には休日手当が支給されたはずである。
「……分かりました。では、僕はこれで失礼します。絢乃さんが無事に会長に就任されることをお祈りしてますね」
「ありがと。お疲れさま」
彼はわたしたちにお辞儀をして車に戻り、そのまま駐車場を後にした。
「――さてと。絢乃、行くわよ!」
「うん!」
母に背中をポンと叩かれたわたしは、気を引き締めた。
****
――大会議室は、地上三十四階・地下二階の三十六階建てである篠沢商事ビルの三十二階にある。その名のとおり、このビルの中にある会議室の中で一番大きな会議室で、月に一回行われるグループ全体の役員を集めた本部会議もここで行われている。
「――みなさん、本日はわざわざご足労頂きありがとうございます。ではこれより、緊急取締役会を始めたいと思います」
議長である母がマイクを手に、会議の開会を告げた。
「本日の議題は、前会長であった夫・篠沢源一の急逝による新会長の選出、およびそれに伴う経営体制の刷新です。まずは、新会長の選出から。――ここに、前会長の作成した遺言状があります。ここでは、この〈篠沢グループ〉の経営に関する内容のみを取り上げたいと思います」
母はジャケットの内ポケットから、白い縦長の封筒を取り出した。それはもちろん父の遺言状で、この会議の前日に弁護士の先生立ち合いのもと、裁判所で内容が公開されていた。
「内容を読み上げます。――『私の死後、篠沢グループの経営に関する全権を、長女の篠沢絢乃に一任するものとする。また、グループ企業の土地・建造物および株式もすべて長女絢乃に譲渡するものとする』――とのことです。というわけで、新会長はここにいる娘の絢乃が就任すべきだと私は思いますが、みなさんのご意見は?」
そこに書かれていた内容は、父が生前わたしに話してくれた内容とまったく同じものだったので、わたしはホッとした。
「僕は会議には参加できませんので、とりあえずどこか近くで時間を潰してますね。会議が終わり次第、またご連絡頂ければお宅までお送りします」
地下駐車場でわたしと母を車から降ろした彼は、一般社員なので取締役会には出席できなかった。そのため、彼だけ別行動を取ることになったのだけれど。
「ありがとう、桐島くん。帰りはいいわよ。ウチの運転手に迎えに来てもらうから。ただでさえ今日は休日出勤してもらってるんだし、あなたは帰ってゆっくり休みなさい」
この日は、実は土曜日。当然ながら会社はお休みだったので、彼には休日手当が支給されたはずである。
「……分かりました。では、僕はこれで失礼します。絢乃さんが無事に会長に就任されることをお祈りしてますね」
「ありがと。お疲れさま」
彼はわたしたちにお辞儀をして車に戻り、そのまま駐車場を後にした。
「――さてと。絢乃、行くわよ!」
「うん!」
母に背中をポンと叩かれたわたしは、気を引き締めた。
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――大会議室は、地上三十四階・地下二階の三十六階建てである篠沢商事ビルの三十二階にある。その名のとおり、このビルの中にある会議室の中で一番大きな会議室で、月に一回行われるグループ全体の役員を集めた本部会議もここで行われている。
「――みなさん、本日はわざわざご足労頂きありがとうございます。ではこれより、緊急取締役会を始めたいと思います」
議長である母がマイクを手に、会議の開会を告げた。
「本日の議題は、前会長であった夫・篠沢源一の急逝による新会長の選出、およびそれに伴う経営体制の刷新です。まずは、新会長の選出から。――ここに、前会長の作成した遺言状があります。ここでは、この〈篠沢グループ〉の経営に関する内容のみを取り上げたいと思います」
母はジャケットの内ポケットから、白い縦長の封筒を取り出した。それはもちろん父の遺言状で、この会議の前日に弁護士の先生立ち合いのもと、裁判所で内容が公開されていた。
「内容を読み上げます。――『私の死後、篠沢グループの経営に関する全権を、長女の篠沢絢乃に一任するものとする。また、グループ企業の土地・建造物および株式もすべて長女絢乃に譲渡するものとする』――とのことです。というわけで、新会長はここにいる娘の絢乃が就任すべきだと私は思いますが、みなさんのご意見は?」
そこに書かれていた内容は、父が生前わたしに話してくれた内容とまったく同じものだったので、わたしはホッとした。