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 ――父のお骨上げも無事に終わり、帰宅する車の中。もちろん、ハンドルを握っていたのは彼である。

「――えっ、ママも知ってたの!? 桐島さんが秘書室に異動すること」

 わたしは隣で小さな骨壺を抱えていた母に詰め寄っていた。
 というのも、火葬場の待合ロビーで彼と話していた内容を母にも聞かせたところ、リアクションが薄いというか大して驚いた様子がなかったからだ。

「ええ。生前、パパから聞いてたもの。まぁ、会社の中での話だったし、私から絢乃に話す義理もなかったし。あなたには、桐島くん自身の口から直接伝えてもらうべきだと思ってたから。……まさか、こんな劇的なシチュエーションで語られるとは思わなかったけど」

「そんな、僕は別に狙ってたわけじゃないですよ? ……確かに、絢乃さんを驚かせてしまいましたけど」

 彼は前方を睨んだまま、肩をすくめた。

「ホントにビックリしたんだから。もっと早めに教えてくれてたら、わたしも心の準備ができてたのに」

 とわたしは口を尖らせてはみたけれど、内心では怒ってなんかいなかった。

「絢乃、よかったじゃない。あなたはまだ高校生なんだから学校もあるし、学校からオフィスまで電車で通うのも大変でしょ? どうせなら、桐島くん(かれ)に送迎も頼んでみたら?」

「ええっ! そんなの申し訳ないよ! ちょっとくらい大変でも、頑張って電車通勤するわよ、わたしっ」

「う~ん……。確かに加奈子さんのおっしゃるとおり、八王子から丸ノ内まで電車通勤は大変ですよね。自由ヶ丘のご自宅からならともかく。――分かりました。僕が絢乃さんの送迎、(うけたまわ)りましょう」

「……いいの? そこまで甘えちゃって」

「もちろんです。――確か、緊急取締役会は明後日に召集されるんでしたね? じゃあ明後日は朝、ご自宅までお迎えに上がります」

 会長を始めとする役員は、取締役会の承認を得て初めて正式に決定となる。それが我が〈篠沢グループ〉のルールなのだ。当然のことながら、会長も例外ではない。
 母は当主の権限で、親族会議の席で取締役会の召集を決定したらしい。それが、わたしと彼が席を外した後のことだったという。

「うん、ありがとう。お願いします」

 ――学校生活と会長職との〝二足のワラジ〟。決して簡単ではないだろうと、わたし自身も覚悟は決めていた。それを、他の取締役員たちに認めてもらうにはどうしたらいいか……。
 わたしはこの時、ある決意を固めていた。