「……え?」
「わたしみたいな小娘に、会長なんて務まるのか。――あれ、ちょっと痛いところ衝かれちゃってたなぁ。わたし自身、パパに言われた時からずっと自信ないもの。わたしに会長なんて重責務まるのかしら……って」
母方の親戚の一人が、親族会議の席でわたしに浴びせた言葉のひとつである。彼のこの言葉は的を射ていたどころか思いっきり急所を衝いてきていて、わたしは心に甚大なダメージを受けていたのだ。
「ごめんなさい。貴方にこんな弱音を吐くつもりはなかったんだけど……」
彼の前では、わたしはなぜか背伸びをせずにいられた。彼になら、甘えて弱い部分を見せても大丈夫だと思えた。
「謝らなくていいですよ。僕になら、弱音なんていくらでも吐いて頂いて構いませんから。今後はそれが、僕の仕事の一環になるわけですし」
「えっ、どういうこと?」
彼はその時、サラリと爆弾発言をしてくれた。その時の驚きを、わたしは今でも忘れられない。
「……もう、お話ししてもいい頃かもしれませんね。部署を異動することは、もうお伝えしてましたよね? その転属先は、実は秘書室なんです」
「秘書室?」
「はい。小川さんの後任者となる会長付秘書って、実は僕なんです」
「えっ、そうなの?」
「はい。――源一会長がお倒れになった後、もしかしたら絢乃さんが会長に就任されることもあるかもしれないと思って、僕なりに覚悟を決めてたんです。すぐに人事部に異動届を提出して、受理されました。今日はまだ総務課に籍が残ってますが、絢乃さんの会長就任が決まり次第、正式に秘書室へ籍も移されることになってます」
彼は淡々とそれまでの経緯を話していたけれど、彼は彼で相当な覚悟を持って転属を決めたのだと、わたしは彼の不器用なまでの実直さに感服した。
「あのっ、こう言ってしまうと、源一会長がお亡くなりになるのを望んでたように聞こえるかもしれませんけど、決してそんなことはありませんからね!? あくまで万が一の事態に備えてたというか……」
ハッとした彼があたふたと弁解するのを見て、わたしは思わず吹き出してしまった。
「大丈夫よ。貴方が父の死をそんな風に考える人だって、わたし思ってないから。安心して?」
「はあ、そうですか。よかった……」
「桐島さん。わたし、どこまでパパのようにできるか分からないけど……、頑張って会長やってみるわ。だから、これから先、わたしのことしっかり支えてね。よろしくお願いします」
「はい、もちろんです! こちらこそよろしくお願いします、絢乃会長」
それが、わたしと彼との間に強い絆が生まれた瞬間だった。
「わたしみたいな小娘に、会長なんて務まるのか。――あれ、ちょっと痛いところ衝かれちゃってたなぁ。わたし自身、パパに言われた時からずっと自信ないもの。わたしに会長なんて重責務まるのかしら……って」
母方の親戚の一人が、親族会議の席でわたしに浴びせた言葉のひとつである。彼のこの言葉は的を射ていたどころか思いっきり急所を衝いてきていて、わたしは心に甚大なダメージを受けていたのだ。
「ごめんなさい。貴方にこんな弱音を吐くつもりはなかったんだけど……」
彼の前では、わたしはなぜか背伸びをせずにいられた。彼になら、甘えて弱い部分を見せても大丈夫だと思えた。
「謝らなくていいですよ。僕になら、弱音なんていくらでも吐いて頂いて構いませんから。今後はそれが、僕の仕事の一環になるわけですし」
「えっ、どういうこと?」
彼はその時、サラリと爆弾発言をしてくれた。その時の驚きを、わたしは今でも忘れられない。
「……もう、お話ししてもいい頃かもしれませんね。部署を異動することは、もうお伝えしてましたよね? その転属先は、実は秘書室なんです」
「秘書室?」
「はい。小川さんの後任者となる会長付秘書って、実は僕なんです」
「えっ、そうなの?」
「はい。――源一会長がお倒れになった後、もしかしたら絢乃さんが会長に就任されることもあるかもしれないと思って、僕なりに覚悟を決めてたんです。すぐに人事部に異動届を提出して、受理されました。今日はまだ総務課に籍が残ってますが、絢乃さんの会長就任が決まり次第、正式に秘書室へ籍も移されることになってます」
彼は淡々とそれまでの経緯を話していたけれど、彼は彼で相当な覚悟を持って転属を決めたのだと、わたしは彼の不器用なまでの実直さに感服した。
「あのっ、こう言ってしまうと、源一会長がお亡くなりになるのを望んでたように聞こえるかもしれませんけど、決してそんなことはありませんからね!? あくまで万が一の事態に備えてたというか……」
ハッとした彼があたふたと弁解するのを見て、わたしは思わず吹き出してしまった。
「大丈夫よ。貴方が父の死をそんな風に考える人だって、わたし思ってないから。安心して?」
「はあ、そうですか。よかった……」
「桐島さん。わたし、どこまでパパのようにできるか分からないけど……、頑張って会長やってみるわ。だから、これから先、わたしのことしっかり支えてね。よろしくお願いします」
「はい、もちろんです! こちらこそよろしくお願いします、絢乃会長」
それが、わたしと彼との間に強い絆が生まれた瞬間だった。