お座敷を退席した際、コートとバッグも持ってきていたので、何となく手持ち無沙汰になっていたわたしはスマホを開いた。そこには、先に帰宅していた里歩からのメッセージが入っていた。

〈今家に着いたよー。
 どんだけ絢乃が親戚から針の(むしろ)にされてたとしても、あたしはずっとアンタの味方だからね☆ だから負けるなよ!  
 学校はしばらく忌引きだよね? 元気になってまた学校おいで('ω')ノ 〉

「ありがと、里歩」

「――お待たせしました。どうぞ」

 わたしがスマホの画面に元気づけられ、独りごちていたところに彼が戻ってきて、買ってきてくれた温かいカフェオレの缶を手渡してくれた。彼自身の分も買っていたらしく、もう一本のそれは温かい微糖の缶コーヒーだった。

「ありがとう! ……あ、お金――」

「ああ、いいですよそれくらい」

 わたしがお財布の小銭を確かめるのを、彼は笑顔でやんわりと止めた。

「そう? じゃあ……いただきます」

 スマホカバーを閉じてバッグにしまうと、プルタブを起こし、中身をすすった。お砂糖とミルクの優しい甘さにホッとした。

 彼はそんなわたしの隣に腰かけ、自分も缶コーヒーを飲み始めた。
「隣」とはいっても、キチンとわたしが不快にならない程度にスペースを空けていて、そんなところからも彼がちゃんと気遣いのできる人なのだと伺い知ることができた。

「絢乃さん、コーヒーお好きなんですか?」

「うん。パパの遺伝かしら。パパも毎朝コーヒーを飲まないと目が覚めない人だったから。ちなみにママは紅茶党」

「そうなんですか。僕もコーヒー好きなんです。飲むのはもちろんですけど、好きが高じて淹れる方にまで()っちゃって」

「へえー、いいなぁ。わたしも桐島さんが淹れた美味しいコーヒー、一度飲んでみたいな」

 わたしが目を細めてうっとりすると、彼はビックリするようなことをわたしに言った。

「そのお望み、案外すぐに叶うかもしれませんよ?」

「……えっ?」

 わたしは目を瞠ったけれど、彼からの申し開きはなかったので、その時のわたしには彼がそう言ったのが冗談だったのか本気だったのか分からなかった。

「――ねえ、桐島さん。さっきは貴方にみっともないところ見せちゃったね。ごめんなさい」

「はい? ……ああ、先ほどの親族会議のことですね」

「うん……。なんか身内の恥を(さら)すみたいで申し訳ないんだけど、あの人たちいつもああなの。お祖父さまが会長職を引退した時も、ああして好き勝手なこと言ってたのよ」

 わたしは(いきどお)りを通り越して。彼らのことを情けなく思っていた。そこまで権力に固執しないと、自分自身を保っていられないのだろうかと。

「お祖父さまって、えーーと……先々代の会長、ってことですよね」

「そう。自分たちがグループ内で実権を握れないのが気に入らないらしくて。……でもね、彼らの言ったこと、ひとつだけ当たってるの」