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 ――二人を見送った後、わたしは父が休んでいる両親の寝室へ足を運んだ。

「パパ、具合はどう?」

「絢乃か。里歩ちゃんと桐島くんは?」

「さっき帰ったわ。ちゃんとお見送りしてきたから」

「そうか」と言って、父はゆっくり体を起こした。わたしは室内のソファーからクッションを持ってきて、父の腰にあてがった。

「ありがとう」

「ううん。――ゴメンね、パパ。せっかくのクリスマスなのに、こんな時だから何もプレゼント用意してなくて……。どこか痛いところがあったら、さすってあげようか?」

 わたしにできる親孝行なんて、こんなことしかないけれど……。そう思うと何だか切なかった。

「ああ、いいのかい? じゃあ……、背中を頼む」

「分かった」

 わたしはゆっくりと、父の背中をさすってあげた。父はゲッソリ痩せてしまっていて、背骨のゴツゴツした感触がわたしの(てのひら)にダイレクトに伝わってきた。
 これが死期の迫った人の背中なのかと思うと、わたしの胸がギュッと締め付けられた。

「パパ、痩せたね……。ゴメンね、わたしが代わってあげられなくて……」

 泣きそうな声でわたしがそう呟いたのが、父にも聞こえていたらしい。

「絢乃、泣かないでくれ。お父さんは、お前のその気持ちだけで十分嬉しいよ。プレゼントなんかなくたって、お前がそうしてお父さんのことを思いやってくれてるだけで幸せだ」

「……うん」

 わたしは鼻をすすりながら頷いた。

「そうだ。お父さんから絢乃に、とっておきのプレゼントがあるんだ」

「うん? なぁに? プレゼントって」

「……お前の手に、グループの経営に関する全ての権限を(ゆだ)ねる」

「え……? それって」

「つまり、だな。――お前に、お父さんの跡を継いで、〈篠沢グループ〉の会長になってもらいたい。お父さんに残された時間はあとわずかだ。絢乃、後のことはお前に任せた」

「…………えっ!?」

 あまりのことに、わたしは言葉を失った。こんなの、あまりにも早すぎる。そう思った。

「これは、お父さんの遺言だと思って聞いてほしい。お母さんも承知してくれてるから、お前は何の心配もしなくていい」

「ママも……承知してるの? ……えっ? でも他の親戚の人たちは……」

 母方の親戚――つまり篠沢家の一族の中には、グループ企業の役員を務めている人たちも少なからずいる。
 彼らは祖父が引退した時に母ではなく、父が会長に就任したことを快く思ってはいなかったらしい。とすれば、彼らの(ほこ)先がわたしに向けられるだろうことも、父には予想できたはずだった。