そういえばこの日が初対面だった二人が、今更のように自己紹介し合っていた。

「あー、いえいえ! それより、あたしには敬語なんていいですよ。あたしなんか、もうホントに普通のJKですから!」

「いえ。僕にとっては、絢乃さんの大事なお友達ですから。これからも絢乃さんのこと、よろしくお願いしますね、中川さん」

 わたしに対してだけでなく、わたしの友達である里歩にまで、彼は低姿勢だった。やっぱり、彼の謙虚さや腰の低さは生まれ持ったものなのだなとわたしは思った。

「はい、もちろんです! 桐島さんも、絢乃とお父さんのこと気かけて下さってるそうで……。このコの親友として、あたしからもお礼言わせて下さい。ありがとうございます」

 里歩に頭を下げられた彼は、「いえ」と言いながら自分も頭を軽く下げた。

「――この雪は、神様がパパに下さった最高のクリスマスプレゼントかもしれないわね……」

「うん、あたしもそう思うなぁ」

「ですねぇ」

 雪はいつの間にか本降りになっていて、薄っすら積もり始めていた。
 父が過ごす生涯最後のクリスマスに、何の因果か東京ではめったに降らない雪が降った。わたしがこの雪を「神様からの贈り物だ」と思ったのも自然なことだったのではないだろうか。

 もっとも、わたしの家族はみんなクリスチャンではなかったのだけれど――。 

「――絢乃。お父さんはちょっと疲れたから、先に部屋で休ませてもらうよ」

「はーい! パパ、ひとりで大丈夫? 部屋までついてってあげようか?」

「いいのよ絢乃。私がついて行くから、あなたはここでお客さまのお相手してて」

 わたしが父の方へ戻ろうとすると、母がそれを制止した。〝お客さま〟とはいっても、親友の里歩と彼だけだったのだけれど。

「うん、分かった。パパ、おやすみなさい」

「里歩ちゃん、桐島くん、悪いねぇ。私はこれで失礼するが、君たちはゆっくりしていきなさい」

「は~い! おじさま、お大事に」

「会長、ありがとうございます。お大事になさって下さい」

 父は母に付き添われて、少々力のない足取りで二階の寝室へ向かっていった。

****

「――わぁ、外真っ白だ! 絢乃、あたしそろそろ帰るねー」

 夜の八時半を過ぎ、クリスマスパーティーはお開きとなった。
 里歩は電車で新宿へ帰るため、わたしは彼女を駅まで送っていこうと思っていたけれど。

「ああ。いいよ。あたしひとりでも大丈夫だから! 絢乃はお父さんについててあげな」

「そう? ありがと。……じゃあ気をつけて帰ってね。また連絡するわ」

「うん。じゃあね、バイバイ絢乃。おやすみ~! ――う~~、寒っ!」

 ウェスタンブーツで積もった雪を踏みしめながら歩く彼女は、コートを着ていても寒そうだった。