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――その後、わたしたちは充実したひと時を過ごした。
里歩が差し入れてくれたフライドチキンやホットビスケットも食卓に並び、それらの料理を堪能した後は、わたし特製のクリスマスケーキ(白いホイップクリームとイチゴでデコレーションした)を切り分けてみんなで味わいながら、ゲームをしたり、クリスマスソングを歌ったりした。
ケーキの評判は上々で、里歩も父も、そして甘いもの好きの彼もすごく喜んでくれた。
「――ねえ、あたしの気のせいかもしんないけど。このケーキってリキュール入ってる?」
「うん、香り付けにちょっとだけね。パパ、甘いものがあんまり得意じゃないから」
父にも食べてもらうので、ケーキの生地に少しだけお酒を入れていた。とはいえ、焼いた時にアルコールは飛んでいたはず……なのだけれど。
わたしはとっさに、彼が下戸であることを思い出した。
「ねえ、桐島さん。……リキュールの香り、気にならない? 酔っ払ったりしない?」
「大丈夫ですよ、コレくらいなら。美味しいです」
「ホント? よかった……」
父もすっかり楽しんでおり、死期が迫っている人にはとても見えないほど元気だった。
余談だけれど、フライドチキンはみんな豪快にかぶりついていた。こういうものを食べるのに、お上品さなんて求めていられないのだ。
「絢乃さん、意外とワイルドなんですね……」
油でベトベトになった口元をわたしが紙ナプキンで拭っていると、桐島さんがそんな感想を漏らしていた。
「だって、この食べ方が一番美味しいんだもん。お行儀悪くてもいいの」
「そうですか。なんか意外だったんで、ちょっとビックリしちゃって。でも、絢乃さんも普通の女の子なんですね。安心しました」
彼はわたしの庶民的な一面を見て驚いてはいたものの、それで引いたという様子はなかった。
思わぬところで彼の笑顔を目にして、わたしの胸はキュンとなった。父の命の灯がもうすぐ消えそうだという時だったのに、わたしはなんて不謹慎な娘だったのだろう。
「――絢乃、外見て。雪降ってきたよ」
「えっ? ……あ、ホントだ。桐島さんもこっち来て来て!」
里歩と一緒に窓の側で雪を眺めていたわたしは、彼を手招きした。
「このお家の中は暖房が効いてて暖かいですけど、外は寒そうですね……。スゴいな。東京でホワイトクリスマスなんて珍しい」
雪はまだチラチラと粉雪が舞っているだけだったけれど、彼はそれを眺めながらそんなことを言っていた。
「――あの、ご挨拶遅れましたけど。あたし、絢乃の同級生で親友の中川里歩っていいます」
「ああ、絢乃さんのお友達ですか。初めまして。桐島貢と申します。絢乃さんがいつもお世話になってます」