――それから五分くらい経って、彼が玄関に現れた。
 それだけの時間がかかったのは車を停めていたからというのもあっただろうけれど、広い敷地で迷っていたからかもしれない。

「――桐島さん! いらっしゃい!」

「こんばんは。絢乃さん、今日はご招待ありがとうございます」

 わたしが笑顔で出迎えると、彼は少々緊張した様子でわたしにお辞儀をした。

「そんなに固くならないで、もっと肩の力抜いていいのよ? ――パーティーの会場はリビングなの。どうぞ、上がって」

「はい、おジャマします」

 スリッパに履き替えた彼を、わたしはリビングまで案内した。

 彼はスーツこそ着ていなかったものの、襟付きのカラーシャツにニットを重ねたキッチリしたコーディネートだった。「パーティーに呼ばれたのだから、おめかしせねば」と意気込んだからなのか、彼の私服はいつもこんな感じなのだろうかと、わたしは首を傾げた。

「あの……、絢乃さん」

「……ん? なぁに?」

 彼が何かを気にしている様子で、わたしに声をかけてきた。
 振り返ってみれば、彼は落ち着かないのか家の中をキョロキョロと見回していて、彼には失礼だけれど挙動不審のおサルさんみたいだった。

「いいんでしょうか? 僕なんかがこんなお屋敷のパーティーに呼ばれて。場違いじゃないでしょうか?」

「何を気にしてるのかと思えば、そんなこと? 今日のパーティーはささやかなホームパーティーだし、家族と家の使用人以外はわたしの親友しか招待してないから。場違いとか、そんなこと気にしなくていいのよ。わたしだってホラ、ドレスなんか着てないし」

「……はぁ、確かに。それって絢乃さんの私服なんですよね」

 わたしはその時、赤いハイネックの二ットにグレーのノースリーブワンピースを重ねたちょっとカジュアルな服装で、しかもその少し前までは小麦粉や生クリームまみれのエプロンをしていたのだ。これで、形式ばったパーティーだと思われても困る。

「それに、わたしにあなたを招待してほしいって頼んだのはパパなのよ」

「……えっ、会長が僕を?」

「そうなの。検査を受けるよう勧めてくれたのが貴方だって、わたしが話したの。そしたらね、パパ、『直接お礼が言いたいから、彼を招待してくれ』って」

「そうなんですか……」

 彼が「信じられない」というように目を瞠った。

 きっと父は、わたしが想いを寄せている相手が彼だと気づいていたのだろう。だからこそ、彼のことを気に入って、大事にしてくれていたのだと思う。