『……えっ!? ボス公認って……、絢乃さん、そこにいんのか?』

「おう、今新宿のカフェに一緒にいんだよ。お前と絢乃ちゃんとの間に何があったかは、だいたい聞いてる。絢乃ちゃんと話したいなら代わるけど。――絢乃ちゃん、どうする?」

 電話の向こうで、彼が低く唸っていた。わたしがお兄さまと一緒にいるというシチュエーションを、変に勘繰っているだろうことは間違いなかった。
 悠さんが、スマホをわたしの前に滑らせてきた。何か言った方がいいのだろうか? 一言彼に謝るべき? ……わたしは(しゅん)(じゅん)した。

「……あの、貢。絢乃です。……えっと、昨夜は貴方の気持ちも考えないで、勝手にブチ切れちゃってごめんなさい」

『絢乃さん……』

「わたし、ちょっと自分勝手っていうか独りよがりだったよね。貴方が悩んでることに、もっと早く気づいてたら……」

『そんなことないですよ。ちゃんと申し上げなかった僕が悪いので、絢乃さんが悪いわけじゃありません』

 こんな時にまで、彼は優しかった。わたしのことを本気で好きなのだという彼の気持ちが、紛れもない本心だとこれで確信できた。

「わたしも、貴方のこと大好きだから。初めて会った時から、ずっと大切な人。それだけは、この先もずっと変わらないから。そのことだけはキチンと伝えたくて。――お兄さまに代わるね」

『……はい』

 わたしは悠さんの前にスマホを戻した。「もういいの?」と目で訴えかけられたので、わたしは頷きで返した。

「――あー、オレだけど。お前さぁ、絢乃ちゃんに『自分は住む世界が違う』って言ったんだって? 自分の境遇、卑下すんのもいい加減にしろよ!? メガバンクの支店長っつう親父の地位だって相当なモンなんだからな。そのおかげでお前、大学まで出してもらえたんだろーが。そんなこと言ったら親父が泣くぞ」

『う……、それは分かってるけどさ。やっぱり、〝名家のお嬢さま〟っていう絢乃さんの境遇と比べたら、ちょっと格が落ちるっていうか』

「そもそも、比べること自体間違ってんだよ。格って何だよ? お前はそんなことでしか女の子の価値測れねぇのか。()いせえ男だな。だから今までの恋愛、うまくいかなかったんじゃねぇの?」

『…………』

 悠さんの話が、どんどん脱線してきていることにわたしは気づいた。彼自身も自覚はあったようで、咳払いをして本線に戻った。

「……とにかく! 今日の夜は実家に帰ってくること! いいな!? じゃあ切るぞ!」

 終話ボタンをタップした悠さんは、スマホをポケットにしまいながらわたしに微笑みかけた。

「――っつうワケで絢乃ちゃん。夜、家族会議が終わったら、アイツに電話させるから。これで関係が修復できるといいな」

「はい! 悠さん、わざわざありがとうございました!」

 外の雨も小降りになってきていて、自分の心の空模様も穏やかになってきたことを感じたわたしは、チョコレートケーキを平らげてカフェオレもキレイに飲み干した。