「あのね、悠さん。実はわたしと貢さん――」

 わたしは訥々(とつとつ)と、五月からの約半年間の二人の関係性を彼に話し始めた。

 二人の関係がキス以上はまったく進展していなかったこと――これはわたしがまだ高校生だからかもしれないということも、彼がわたしに対して見えない壁を作っていたこと、そして、わたしとの結婚がムリだと彼が言い切ってしまったこと。その原因は、彼が側にいてくれることが当たり前になってしまって、わたしが彼に婿入りを半ば強要してしまっていたからかもしれないこと……。

「――わたしも彼には申し訳ないと思ってるんです。わたしと結婚すること――というか、わたしの家のお婿さんになることが、彼にそこまでプレッシャーを与えてたなんて考えてもいなかったから」

 それまで相槌を打ちながら、わたしの話に耳を傾けてくれていた悠さんは、額に手を当ててやれやれと首を振った。

「…………アイツはバカか」

 吐き捨てたのは、彼にしては珍しい弟への(しん)(らつ)なセリフ。

「アイツは確かに、昔っからプレッシャーに弱かった。それは肉親であるオレがよぉ~く知ってるよ。でも、いくら何でもそりゃねぇわ。ただ単に自分が()()づいてんのを絢乃ちゃんのせいにしてるだけじゃん! 安心しな、絢乃ちゃん。やっぱ、絢乃ちゃんは何も悪くねぇよ」

「え……? でもわたしが追い詰めなきゃ、貢さんだってこんなことには」

「それはさぁ、アイツのこと本気(マジ)で好きだからじゃん? そんなの当たり前の感情だべよ。これだからアイツは、女心分かってねぇんだっつうの。――絢乃ちゃん、ちょっと待ってな」

「……はい?」

 悠さんはジャケットの胸ポケットから自分のスマホを取り出し、わたしの目の前で貢に電話をかけ、スピーカーフォンにしてテーブルの上に置いた。

「これはボスである絢乃ちゃん公認の電話っつうことで、オッケーしてもらえる?」

「……はい」

 どうでもいいけれど、その時は彼もまだ仕事中だった。お兄さまから私用電話なんてかかってこようものなら、真面目な彼はブチ切れそうだったけれど、わたし公認ならさすがに彼も文句は言えないだろうという、兄ならではの悠さんの計算だったのだろう。

『――はい、もしもし? 兄貴、こっちは今仕事中なんだぞ!? 一体何の用だよ!?』

 案の定、応答した彼の声は不機嫌だった。そして、母に遠慮しているのか声が小さかった。

「用件なら、お前が一番分かってんべや。お前、今日仕事終わったら実家に直で帰ってこい。緊急の家族会議な」

 悠さんの言葉には、「これでも長男だ」という威厳が込められていた。その有無を言わせない威圧感に、彼はたじろいでいた。

『…………っ。だいたい、仕事中に個人的な用件で電話して来られても困るって』

「心配すんな。この電話はお前のボス公認だから」