「いいよいいよ、オレもついさっきバイト先から来たばっかだし」

 息を切らせながら謝ると、悠さんは手をひらひらさせながら笑った。そして、わたしの姿をまじまじと眺めては、何を言うのかと思ったら。

「そういやオレ、絢乃ちゃんの制服姿初めて見たわ。可愛いじゃん♪」

「あ……、ありがとうございます。そういえば、悠さんが来社された時は、わたしスーツ姿でしたもんね」

 どうでもいいことだけれど、わたしの制服姿を初めて見た時のリアクションは、兄弟でほとんど変わらなかった。彼も同じようなリアクションだったなと思うと、わたしは何だかおかしかった。
 普段はこんなに仲のいいご兄弟なのに、わたしのせいで彼らの兄弟仲まで壊れそうになっていたなんて……。少なくとも、彼がお兄さまからの連絡を拒否していたのは、それが原因での八つ当たりだったろうから。
 まずは、悠さんに一言お詫びしなければ……。わたしはそう思ったけれど。

「……あの、悠さ――」

「なんかこうしてっとさ、オレらパパ活中みたいだよな」

「……は? パ、パパ活!?」

 悠さんがわけのわからないことを言い出したので、わたしは呆気に取られた。――〝パパ活〟という言葉の意味くらいは、知らなかったわけではないけれど。
 女子高生とアラサーの男性の組み合わせ。確かに、何も知らない人が傍から見れば、そう見えないこともなかったかもしれない。

「んなワケねぇよなぁ。絢乃ちゃん、金に困ってるわけねぇし。冗談だよ」

「ああ……、ですよねぇ」

 わたしがお金に困っていない、そしてこの先も困ることがないのは確かだ。だから、あまり人からそこをツッコまれるのは好きではないのだけれど、悠さんから言われるとイヤミに聞こえなかったのが不思議だ。

「んーと、立ち話もなんだし、今日ちょっと(さみ)ぃし、どっかカフェでも入って話そっか。この近くにさぁ、分煙式のカフェがあんのよ」

「はい」

 ――わたしたちは新宿駅を出て、悠さんオススメのカフェに腰を落ち着けた。テーブル席に向かい合わせに座り、わたしはケーキセットをホットのカフェオレで、彼はホットコーヒーをブラックで注文した。

「――あの、悠さん。今回のこと、ホントにすみませんでした。わたしのせいで、悠さんにまでご迷惑おかけしちゃって……」

 わたしはカフェオレを一口飲んで気持ちを落ち着けると、悠さんに深々と頭を下げた。

「……えっ? なんで絢乃ちゃんが謝んの? オレ、キミには何も怒ってねぇけど」

 コーヒーを飲んでいた彼はカップを静かに置き、腕を組んでわたしに目を瞠った。
 悠さんはきっと、弟である貢にも腹を立てていなかったと思う。ただ、何が起こったか分からなくて困惑していただけなのだ。