里歩と唯ちゃんと待ち合わせていた新宿駅へ向かう途中、わたしが考えていたのは、もっぱら彼のことだった。

 ちなみに唯ちゃんのお家は恵比寿にあるのだけれど、彼女もJR山手線から京王線に乗り換えるために新宿駅を利用しているそうで、四月からは彼女も待ち合わせに加わっていたのである。――それはさておき。

 前日の夜、彼は雨の中を傘も差さずにずっと車外にいてずぶ濡れになっていた。傘はちゃんと車の中に積み込んであったはずなのに。
 秋の雨は冷たいし、かなりの大振りだったので、あのあと風邪を引いていたら……と思うとわたしも責任を感じていたのだ。
 
 帰宅してから入浴後にも就寝前にもスマホをチェックしてみたけれど、彼からの着信もメッセージも一件も入っていなかったので、余計に心配になった。
 彼はわたしに拒絶されたと思ったから、連絡するのをためらったのだろうか? ()()()()()になってしまったわたしに余計な心配をかけたくなくて? ……生真面目な彼のことだから、あり得なくもない……かもしれなかった。
 
 だからといって、わたしから連絡すると余計に話がこじれそうだったし……。別に意地を張っていたわけではないのだけれど、わたしから「ゴメン」と言ったところで、根本的な解決にはならなかっただろうから。

 彼はきっと、伝統ある〝篠沢家〟という名家に婿入りすることに尻込みしていたというか、及び腰になってしまっていたのだろう。それをさも当然のことのように彼に押し付けてしまったのには、明らかにわたしに非があったと思う。それは反省すべき点だった。

 もう一度、彼と話し合うことができたら……。彼の苦しみにもちゃんと耳を傾けて、彼の意思もちゃんと()んであげて、そのうえでお互いの気持ちをもう一度確かめ合うことができたら、二人の関係も修復できそうな気がした。……ただ一人、わたしたちの関係を引っ掻き回して喜ぶおジャマ虫さえ出てこなければ。

「――お~い、絢乃~っ!」

「絢乃タ~ン、おはよ~!」

 京王線のホームに、わたしと同じ制服姿の長身のショートボブと小柄なポニーテールが見えた。二人はわたしに向かって笑顔で手を振ってくれていた。

「里歩、唯ちゃん! おはよう!」

 わたしも努めて精一杯の笑顔で手を振り、二人の親友の元へ駆け寄っていった。
 この二人は、前日の夜に起きたわたしと彼との問題に無関係だから。あんなプライベートなことに、彼女たちを巻き込みたくなかったのだ。

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 ――学校にいる間は、できるだけ彼のことを考えないようにしようと思っていたけれど。授業中にもお昼休みの間にも、わたしはスマホをチラチラ気にしていた。
 さすがに仕事中にはメッセージも送れないだろうけれど、お昼休みになら……という淡い期待もあったのだ。でも、彼からの連絡は一度もなかった。