それがたとえ彼女としての贔屓(ひいき)()でしかなかったとしても、他の男性に視線を奪われてしまうよりはよっぽどいいと思った。

「会長も、すごくステキですよ。今日はすごく大人っぽく見えます」

「ホント? 嬉しい! ありがと!」

 わたしも、この日は他の女性出席者――もちろん女性の経営者がいないわけではないのだけれど、同伴者の女性たちも負けないくらい華やかだった――に引けを取らないくらい、目いっぱいのおめかしをしていた。

 大好きなピンク系の色だけれど、落ち着いたスモーキーピンクのマキシ丈のノースリーブドレスに、オフホワイトのボレロ。靴はピンクゴールドのハイヒール。ちょっと大きく開いてデコルテが見える胸元には、彼から誕生日にもらったお気に入りのネックレスが光っていて、いつもは下ろしている長い髪は、うなじが見えるアップスタイルにしていた。しっかりめにメイクもしていたので、わたしが有名人でなければ、「十八歳だ」と言っても誰も信じてくれなかったのではないだろうか。

「――そういえば、貴方と出会ったのもちょうど一年前のパーティーだったね。パパのお誕生日の。……あ、ゴメン」

 一年前、彼との出会いも父の誕生日パーティーだったなぁと、わたしはしみじみ思い出していた。
 でも、ちょうどその頃に彼が会社を辞めたがるほど苦しんでいたことを思い出し、言ってしまってから後悔して、彼に小さく謝った。
 彼にとってその頃の話は、思い出したくもない地雷だったかもしれないから。

「謝らなくていいですよ。もうあの件は片付きましたし、僕も忘れることにしましたから。あなたや、加奈子さんと知り合ったこと以外は」

「……そう? それならよかったけど」

 彼は強くなったかもしれない。あんなに思い詰めていたのに、そんなに簡単に記憶から消してしまえるものだろうか。
 それを口に出して訊ねると、彼は微笑んでこう答えた。

「それは、あなたという強い味方ができたからです。おっしゃってくれたじゃないですか、僕のことを守って下さるって。そして、それを見事に実行されたじゃないですか。だから、あのことも忘れることができたんです。会長にはいつも感謝してますから」

「……うん」

 熱っぽく語られて、わたしの顔が熱くなった。でも引っかかったのは、彼が「感謝している」と言ったこと。
 あれはニュアンス的に、わたしへの愛情を言い表していたはず。なのに、出てきた言葉は「感謝」? どうしてそれだけなの?
 この場には会社の人間は来ていなかったので、ボスと秘書という関係に徹しなければならないわけでもなかった。なのに、彼がそれしか言葉にしなかったのはどうしてだったのだろう?
 その場のわたしには分からなかった。