この二日間の出張中、わたしたち二人の仲はずっとギクシャクしたままだった。
 神戸支社の視察は初日のうちに何の問題もなく終わったし、川元(かわもと)隆彦(たかひこ)支社長とのご縁もできた。メインである仕事においては、神戸行きの目的は無事果たせたといえた。

 二日目の神戸観光でも、川元さんがわたしたちのガイドを買って出て下さった。神戸港・南京(なんきん)(まち)北野(きたの)の異人館街……と、どこも楽しかったけれど、わたしと彼との会話はあまり弾まなかった。川元さんがご一緒でなければまた違ったかもしれない。でも、わたしはそれだけが原因ではないと思っていた。
 彼は多分、良家の令嬢であるわたしと、銀行マンの次男である自分とは釣り合っていないんじゃないかと思っていたのではないだろうか……。

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 ――神戸出張を終え、わたしは夏休みの間も週五日、朝から夕方まで出社していた。宿題は、毎日帰宅後に少しずつ片付けていった。

 毎日彼に送迎してもらうのは、あんな精神状態ではちょっと苦痛ではあった。顔を合わせれば彼に恨み言のひとつも言いたくなってしまうから。

 八王子の学校からならともかく、自由ヶ丘の自宅からなら電車通勤も苦にならなかったけれど。彼も意地なのか、それとも義理からなのか、毎日律儀に送迎してくれた。
 自分がしたくて送迎をしてくれていたならまだいいけれど、義理でまでしてくれなくてもよかった。彼には、わたしに対して義務感なんて持ってほしくなかったし、そんなの嬉しくも何ともないのだ。

 ――そんなある暑い日の午後。彼を社外までお遣いに出して間もなく、会長室のドアがノックされた。当然、彼がそんなに早く戻ってくるはずもなく。

「――どなた?」

「秘書室の広田です。入ってよろしいでしょうか?」

 わたしが訊ねると、広田室長のキビキビした声が聞こえてきた。彼女は貢の直属の上司だけれど、会長室を訪ねてくることはめったにない。

「どうぞ、お入りになって」

「ありがとうございます。失礼致します」と礼儀正しく言って、髪をひっつめにしたひとりの女性が入ってきた。母より一つ年下だという彼女が、広田さんである。

「――あら? 桐島くん、今いないんですね」

 入室して開口一番、広田さんは 彼の不在に首を傾げた。

「ええ、ちょっと外までスイーツを買いに出てもらってるんです。こう暑いと、甘いものでも食べなきゃエネルギーが()たないもの。――どうぞ、適当におかけ下さい」

 わたしが促すと、彼女は手近だった貢の席からキャスター付きの椅子を転がしてきて、わたしの席の前でその椅子に腰かけた。

「……それ、後で桐島さんに怒られるかも」

 苦笑いするわたしに、彼女は「大丈夫ですよ。私、上司ですから」と、あっけらかんと笑い飛ばした。