縮めたくても縮まらない彼との距離、読み取れない彼の本心がどうしようもなくもどかしくて、この当時のわたしはモヤモヤばかりしていた。
 わたしという人間がイヤになったのなら、中途半端に交際を続けられるよりも、さっさと見切りをつけてくれればいいと思っていたのだ。

「最近の彼の口癖、何だと思う? 『僕と絢乃さんとは住む世界が違いますから』ですって。唯ちゃん、どう思う?」

 わたしのボヤきを聞いた唯ちゃんは、赤いフレームの伊達メガネをずり上げながら、う~んと唸った。

「そうだなぁ……。彼氏さん、ちょっと疲れちゃってるだけなんじゃないかなぁ。浩介クンも里歩タンの彼氏さんも学生さんだからお気楽なもんだけど、絢乃タンの彼氏さんは大人だもん。やっぱり色々考えちゃうんだろうね。絢乃タンのお家ってスゴいんでしょ? そんなお家のお婿さんになるプレッシャーとか」

「プレッシャー……は、かけてるつもりないんだけどな」

 わたしには自覚がなかったけれど、彼の方はどうだったのだろう? その頃は気づいていなかったけれど、そういえば彼の口からはあまり〝結婚〟をほのめかすような話題は出ていなかったと記憶している。

「まぁ、わたしの考えすぎかもしんないけどね。でも、先月のデート中にバッタリ会った時、わたしには二人がお似合いに見えたよ! だからきっと大丈夫だよ! 彼氏さんのこと信じてあげて!」

 ちょっと短めのポニーテールを揺らしながら、彼女はわたしを一生懸命励ましてくれた。

「……うん、そうね。話聞いてくれてありがと、唯ちゃん」

「よかったぁ。わたし、里歩タンみたいにちゃんとできたかなぁ?」

「うん、大丈夫」

 里歩みたいにアネゴ肌ではなかったけれど、彼女は彼女なりにわたしを元気づけてくれたから、それで十分だ。何も、里歩と比べる必要なんてない。

「おかえり、里歩。――それなに?」

 そこへ戻ってきた里歩は、両手に冊子のようなものをドッサリ抱えていた。

「ああコレ? 修学旅行のしおりだよ。行先は韓国だって」

「修学旅行!? 韓国! イェーイ♪ 楽しみっ!!」

 六月の第三週目にあるビッグイベントに、唯ちゃんは大はしゃぎだったけれど。

「あ……、わたしムリだわ。参加できない」

「あー、仕事? 残念……。ホンっト、大企業のトップって大変だねぇ。じゃ、絢乃のためにいっぱい写真撮ってくるか」

 わたしが一緒に行けないことを、里歩は残念がっていた。

「うん、ホント残念んー。じゃあ、わたしたちでお土産いっぱ~い買ってくるからねっ♪」

「二人とも、ありがと。修学旅行、わたしの分まで楽しんできてね」

 わたしも本当はガッカリしていたけれど、友人二人の気遣いはすごくありがたかった。

 ――わたしには、わたしのやるべきことがある。そう思うと、残念がっている場合ではなかったのが正直なところでもあった。