「それって……、まさかブラックカード!? 絢乃さんの名義ですか!?」

「うん♪ わたしも十八になったし、自分名義のクレカ申し込めるようになったからね。でも、クレジット会社が『年収が千五百万円以上あるなら、ブラックも申し込めますよー』って強く勧めるもんだから。わたしは別に普通のでも、ゴールドでもよかったんだけど」

「…………はぁ」

 彼はちょっと引いていたかもしれない。まさかあんなところで、自分とわたしとの格差を見せつけられることになるとは思っていなかっただろうから。

「じゃ、行きましょう!」

「……はい」

 わたしは彼の戸惑いに気づかないふりをして、彼を連れてお店(テーラー)までグングン進んでいった。

****

 そのテーラーの職人さんは、「この道五十年」という言葉がしっくりきそうな七十歳近い白髪の男性だった。そのお店の店主でもあるとのことだった。
 年齢を感じさせない(かく)(しゃく)とした高齢の職人さんは、テキパキとメジャーを伸ばして彼の肩幅や胸囲、胴衣、脚の長さなどの採寸を進めていた。
 それまでは長身だけれどヒョロッとしていて頼りなく見えていた貢の胸板が、意外にも厚かったのはわたしの新たな発見だったと思う。
 やっぱり彼も男性なんだなぁ、女であるわたしとは違うんだなぁと、当たり前だけれどそう思ってドキッとしてしまう自分がいた。
 
「――はい。では確かに注文を承りました。こちらが注文書でございます。ご連絡を差し上げた際には、こちらをお持ちくださいませ。……お支払いはいかがなさいますか?」

 メインの生地や裏地の色、素材、ボタンの種類、ボトムスの裾の形などを決めると、オーダーは完了した。やっぱり、仕立て終えるまでには三週間から一ヶ月かかる、とのことだった。

「このお店ってカードは使えますよね? じゃあコレで」

 わたしは臆することなく、ブラックカードを店主の男性に差し出した。
 初めてカードを使用する人は、たいてい少しくらいはオドオドするものらしいのだけれど、カードを使うことに慣れてしまっていたわたしにはそれがなかった。
 彼はきっと、わたしのそんな光景を、信じられない想いで見ていたのだろう。そして、ますます「やっぱり自分と絢乃さんは、住む世界が違うんだ」という気持ちを強くしていたのかもしれない。

****

 そんなことがあってから、わたしに対する彼の態度が少し変わった。

 もちろん、仕事の時にはちゃんとしてくれていたし、プライベートではよくデートもしていたし、わたしが彼のお部屋へ行ってお料理をして、一緒に食事をする機会も増えた。表向きには、わたしと彼の関係は良好だった。
 でも以前に増して、彼はわたしに(へりくだ)るようになったし、自分のことを卑下することも増えていった。