彼女のキャラや言動は、アニメオタクでも何でもない人からしてみれば突拍子もなく、理解されにくい。
 わたしもどちらかと言えばオタク気質で、唯ちゃんに近いので何とも思わなかったけれど、彼はそうではなかったかもしれない。

「ああ、いえ。人の趣味はそれぞれですし、僕もコーヒーオタクみたいなものなんで。ステキな趣味をお持ちでいいんじゃないでしょうか」

「そういえば、唯ちゃんの彼もアニメ好きって言ってたわね。趣味が合う人とお付き合いできるってすごく幸運なことよね」

 この日のデートで観に行く映画もアニメ作品だと言っていたので、あれは唯ちゃんだけでなく、彼の希望でもあったのだろう。

 わたしと彼は同じ趣味を持っているわけではないけれど、相性はいい方だと思っていた。……ただ、今にして思えば、彼はこの頃すでに迷っていたのかもしれない。
 自分とは住む世界が違うわたしとの結婚という、とてつもなく大きな重圧を目の前にして。

「うん! 絢乃タン、ありがと! ――あ、(こう)(すけ)クン来たから、わたし行くね。じゃあ、また学校で! バイバ~イ☆ 浩介クン、遅いよー」

 唯ちゃんは待ち合わせていた恋人の姿を見つけ、口を尖らせながらも楽しそうな足取りで彼の方へ行ってしまった。

「……なんか、阿佐間さんってユニークな方ですね」

 彼女の姿が見えなくなると、彼は唯ちゃんのことを褒めているんだか呆れているんだか分からないコメントをした。というか、それしか思いつかなかったのだそうだ。

「自分の好きなものに正直なだけでしょ。純粋でまっすぐで、わたしは好きよ」

 彼女のアニメへの情熱がそうであるように、わたしも願わくば、彼への愛にまっすぐでありたい。そして、彼もそうであってほしい。そう思った。

「――さ、行きましょうか。お店にはもう連絡してあるから、職人さんが待ってらっしゃると思うわ」

 その日の予定では、夏用と冬用の二着のスーツを仕立ててもらう予定にしていた。もちろん、その日のうちにできるわけがないので、完成の連絡が来次第受け取りに行くことになっていた。彼の誕生日に間に合わないことも計算済み。
 だから、この日は採寸と注文を終えたら、別のお店で彼の靴やシャツ、ベルトやネクタイなどの小物も見に行くことにしていた。
 予算は三十万円。そんな大金、高校生が持ち歩くのは危険極まりないので財布には十万円くらいしか入れていなかったけれど、わたしには転ばぬ先の杖があった。

「支払いのことなら心配しないでね。わたしには、コレがあるから!」

 ジャン♪ と擬音付きで財布から取り出したのは、わたしの名義で作ったばかりの黒光りするカードだった。人呼んで、〝ブラックカード〟である。