それをごまかすように、わたしはあえて無邪気なフリをしてみせた(実際、わたしはいつも無邪気なのだけれど、それは置いておいて)。
「このクマちゃん可愛いよねー♪ お名前、何にしようかなっ」
テディベアを両手で抱っこして、毛並みを確かめるように撫でながらはしゃいだ。
「名前ですか? 絢乃さんにも、ぬいぐるみに名前つける趣味がおありだったんですね」
「ナニよぉ、悪い? わたしだって女の子だもん。……あ、貢にもらったコだから、〝ミッくん〟にしようかな☆」
呆れているような彼に口を尖らせてから、クマに名前をつけた。
「貢で〝ミッくん〟ですか……」
「うん! ね、いいでしょ? 貢お兄ちゃん」
わたしはクマの右手を持ち上げて、満面の笑みで彼に話しかけた。彼はもっと呆れると思ったけれど、彼はただの女の子に戻ったわたしを、目を細めて見ていた。
「やっぱり、絢乃さんって可愛いですよね。キリっとした大人の表情もいいですけど、等身大の笑顔が僕は大好きです。この表情を見られるのって、家族を除けば彼氏だけの特権ですよね」
「……うん」
〝彼氏〟……。わたしが言わせたのではなくて、彼は自分からそう言った。わたしの愛情が押しつけではないことを、その言葉がちゃんと裏付けてくれたのだ。
カーナビの時刻表示を確認すれば、まだ夕方六時。帰るには少し早い時間だったので、わたしたちはもう少し車内でお喋りをしていくことにした。
あと五分か十分くらいなら、お店のジャマにはならないだろうと。せめて売り上げには貢献しようと、彼が店内でペットボトルの飲み物を買ってきてくれた。彼はミネラルウォーターで、わたしの分はカフェラテだった。
「――実は、生前あなたのお父さまから頼まれてたんです。『いざという時は、絢乃さんのことを頼む』と」
「……えっ? 初耳だわ、そんな話。パパといつそんな話してたの?」
「去年のクリスマスイブに、お宅に招かれた時に。――絢乃さんはキッチンに行かれてたので、お聞きになってなかったんですね。今にして思えば、あれが僕への遺言だったんじゃないかと」
「それって……。パパは気づいてたのかな? わたしの好きな人が貢だってことも、貴方のわたしへの恋心にも」
「そうかもしれませんね。もう死期を悟ってらっしゃったでしょうし、自分のいなくなった後に、僕と絢乃さんが結ばれることをお望みだったのかもしれません」
「…………」
彼の屈託のない笑顔に、返事に困ったわたしはカフェラテをグビッと呷った。
もしそれが事実だったとして、わたしと彼が結婚することになったら――というか、今それが現実になっているのだけれど、父が仕組んだ政略結婚でもあるということを示していた。
でも、愛情によって結ばれたと確信している今は、この結婚は決して政略結婚なんかじゃないと二人ともが言い切れる。
「このクマちゃん可愛いよねー♪ お名前、何にしようかなっ」
テディベアを両手で抱っこして、毛並みを確かめるように撫でながらはしゃいだ。
「名前ですか? 絢乃さんにも、ぬいぐるみに名前つける趣味がおありだったんですね」
「ナニよぉ、悪い? わたしだって女の子だもん。……あ、貢にもらったコだから、〝ミッくん〟にしようかな☆」
呆れているような彼に口を尖らせてから、クマに名前をつけた。
「貢で〝ミッくん〟ですか……」
「うん! ね、いいでしょ? 貢お兄ちゃん」
わたしはクマの右手を持ち上げて、満面の笑みで彼に話しかけた。彼はもっと呆れると思ったけれど、彼はただの女の子に戻ったわたしを、目を細めて見ていた。
「やっぱり、絢乃さんって可愛いですよね。キリっとした大人の表情もいいですけど、等身大の笑顔が僕は大好きです。この表情を見られるのって、家族を除けば彼氏だけの特権ですよね」
「……うん」
〝彼氏〟……。わたしが言わせたのではなくて、彼は自分からそう言った。わたしの愛情が押しつけではないことを、その言葉がちゃんと裏付けてくれたのだ。
カーナビの時刻表示を確認すれば、まだ夕方六時。帰るには少し早い時間だったので、わたしたちはもう少し車内でお喋りをしていくことにした。
あと五分か十分くらいなら、お店のジャマにはならないだろうと。せめて売り上げには貢献しようと、彼が店内でペットボトルの飲み物を買ってきてくれた。彼はミネラルウォーターで、わたしの分はカフェラテだった。
「――実は、生前あなたのお父さまから頼まれてたんです。『いざという時は、絢乃さんのことを頼む』と」
「……えっ? 初耳だわ、そんな話。パパといつそんな話してたの?」
「去年のクリスマスイブに、お宅に招かれた時に。――絢乃さんはキッチンに行かれてたので、お聞きになってなかったんですね。今にして思えば、あれが僕への遺言だったんじゃないかと」
「それって……。パパは気づいてたのかな? わたしの好きな人が貢だってことも、貴方のわたしへの恋心にも」
「そうかもしれませんね。もう死期を悟ってらっしゃったでしょうし、自分のいなくなった後に、僕と絢乃さんが結ばれることをお望みだったのかもしれません」
「…………」
彼の屈託のない笑顔に、返事に困ったわたしはカフェラテをグビッと呷った。
もしそれが事実だったとして、わたしと彼が結婚することになったら――というか、今それが現実になっているのだけれど、父が仕組んだ政略結婚でもあるということを示していた。
でも、愛情によって結ばれたと確信している今は、この結婚は決して政略結婚なんかじゃないと二人ともが言い切れる。