わたしはゆるゆると首を横に振り、改めて彼に心からの感謝を伝えた。

「ううん! 凝ったシチュエーションなんていらないのよ。ありがとう! ――ねぇ、開けていい?」

「もちろんです。どうぞ」

 彼は一体、わたしのためにどんなものを選んでくれたのだろう? ――わたしはドキドキしながら紙袋の(ふち)に貼られたテープを()がし、中身を取り出した。
 すると、中から出てきたのは一体の可愛いテディベアと、長さ十五センチくらいの細長い箱だった。

 テディベアは茶色で毛並みがモフモフしていて、首に巻かれた赤いリボンがすごくキュート。そして細長い箱の方は、パールピンクの包装紙でラッピングされていて、ブルーのリボンがかけられていた。
 わたしがその包装紙まで破かないように慎重に剥がすと、白いベルベット生地のケースが姿を現した。そこに収められていたのは……。

「わぁ……、ネックレスだ。ステキ……」

 プラチナのチェーンにゴールドの小さなハート形のトップがついた、シンプルなデザインのネックレスだった。アクセサリーなんて男性から贈られたことが一度もなかったわたしは、それをうっとりと眺めていた。

「それ、兄から『物選びのセンスがめちゃめちゃ悪い』って言われた僕が、自分のセンスだけで一生懸命選ばせて頂いたんです。お気に召して頂けましたか?」

「うん、すっごく気に入った! っていうか悠さん、貴方にそんなこと言ってたのね。(しん)(らつ)……」

 おそるおそる感想を訊ねてきた彼にわたしは頷き、彼のお兄さまの毒舌には苦笑いした。
 兄弟だから遠慮もヘッタクレもないのかもしれないけれど、それにしたってそのコメントは辛口すぎやしないだろうか?
 というか、あの日の夕方給湯室で悠さんから電話がかかってきた後、彼がその内容についてお茶を濁していたのは、どうやらこのことだったらしい。

「いいんです。確かに僕、過去に恋人へのプレゼント選びで大失敗して、彼女にドン引きされたことがあったので。言われても仕方ないんです……」

 ついでにそんなカミングアウトまでして、彼が肩をすくめた。彼がどんなものを選んだのか分からなかったけれど、そこはわたしも知りたくなかったので、あえて追い討ちをかけるのはやめてあげておいた。

 その代わりに、そんな彼を励まそうと思い、わたしは彼にこんなお願いをしてみた。

「……あっ、そうだ! ねえ貢、これ、貴方が着けてくれない?」

「えっ? 僕が……ですか?」

「うん。イヤ……かしら? これってパワハラになっちゃうかな?」

 わたしは、彼がどうしてもイヤだと言えば無理強いするつもりはなかったのだけれど。

「いえ、やらせて頂きます。……絢乃さん、後ろ向いて頂いていいですか?」