でも、それは本当に一瞬のことで、彼はすぐにいつも見慣れた澄まし顔に戻った。
「もちろん、忘れてませんよ。忘れるわけないじゃないですか」
「…………」
あまりにも白々しいので、わたしはそのままジト目で彼を一瞥し、ため息をついた。
「プレゼントは?」とわたしから催促するのも違う気がしたし、何より彼がそんな分かりやすいハッタリをかますような人だとも思えなかった。
そのまま彼はしばらく車を走らせていたけれど、彼が車を停めたのはわたしの家の門の前ではなく、家の近くにあるコンビニの駐車場だった。
「……あれ? ねえ貢、ここウチの前じゃないけど――」
彼がなぜこの場所に駐車したのか、何か意味があるのか。わたしは困惑していた。
ちなみに補足だけれど、わたしが彼のことを「貢」と呼び始めたのは、この少し前のことである。ただし、プライベートだけだ。
「――絢乃さん。遅くなってすみませんが、十八歳のお誕生日おめでとうございます」
「え……。あ……、ありがと」
彼はそう言って、運転席の足元に隠してあった淡いピンク色の紙袋をわたしに差し出した。大きさは確か、B5サイズくらいだったと思う。
「これ……、もしかして」
「はい。もちろん、絢乃さんのお誕生日プレゼントです。ちゃんと用意してあったでしょう? 僕のこと、信用してらっしゃらなかったんですね」
「うん……、ゴメン」
大好きな彼のことを、わたしはどうして信じていなかったんだろう? わたしはこの時、自分を心の中で激しく罵りたい気分だった。
「でも、どうしてもっと早くくれなかったの? 貴方がここまで焦らさなきゃ、わたしもこんなに不安にならなかったのに」
「焦らしてたわけじゃないんです。僕たちの関係って、社内じゃ秘密になってるじゃないですか。ですから、朝のうちにお渡ししたら、他の社員に感づかれるんじゃないかと思いまして……。特に、秘書室の先輩がたは広田室長を筆頭に、そういうことに関しては敏いですからね」
「……確かに」
わたしは納得した。秘書室のお姉さまがたは噂話が大好物だ。守秘義務が要求される部署なのにそれはどうなのかと思うけれど、彼がプレゼントの紙袋を持って社内をウロウロしていたら、「それ誰の?」とあれこれ詮索されるのは目に見えていた。
「で、どうせお渡しするならサプライズがいいかな……と思いまして。ちょうどいい場所が、ここくらいしかなかったもので。ムードがなくてすみません」
彼のサービス精神に、わたしはまたキュンとなった。ムードなんてなくたって、彼が知恵を絞ってわたしを喜ばせようとしてくれただけで、もう十分嬉しかった。
「もちろん、忘れてませんよ。忘れるわけないじゃないですか」
「…………」
あまりにも白々しいので、わたしはそのままジト目で彼を一瞥し、ため息をついた。
「プレゼントは?」とわたしから催促するのも違う気がしたし、何より彼がそんな分かりやすいハッタリをかますような人だとも思えなかった。
そのまま彼はしばらく車を走らせていたけれど、彼が車を停めたのはわたしの家の門の前ではなく、家の近くにあるコンビニの駐車場だった。
「……あれ? ねえ貢、ここウチの前じゃないけど――」
彼がなぜこの場所に駐車したのか、何か意味があるのか。わたしは困惑していた。
ちなみに補足だけれど、わたしが彼のことを「貢」と呼び始めたのは、この少し前のことである。ただし、プライベートだけだ。
「――絢乃さん。遅くなってすみませんが、十八歳のお誕生日おめでとうございます」
「え……。あ……、ありがと」
彼はそう言って、運転席の足元に隠してあった淡いピンク色の紙袋をわたしに差し出した。大きさは確か、B5サイズくらいだったと思う。
「これ……、もしかして」
「はい。もちろん、絢乃さんのお誕生日プレゼントです。ちゃんと用意してあったでしょう? 僕のこと、信用してらっしゃらなかったんですね」
「うん……、ゴメン」
大好きな彼のことを、わたしはどうして信じていなかったんだろう? わたしはこの時、自分を心の中で激しく罵りたい気分だった。
「でも、どうしてもっと早くくれなかったの? 貴方がここまで焦らさなきゃ、わたしもこんなに不安にならなかったのに」
「焦らしてたわけじゃないんです。僕たちの関係って、社内じゃ秘密になってるじゃないですか。ですから、朝のうちにお渡ししたら、他の社員に感づかれるんじゃないかと思いまして……。特に、秘書室の先輩がたは広田室長を筆頭に、そういうことに関しては敏いですからね」
「……確かに」
わたしは納得した。秘書室のお姉さまがたは噂話が大好物だ。守秘義務が要求される部署なのにそれはどうなのかと思うけれど、彼がプレゼントの紙袋を持って社内をウロウロしていたら、「それ誰の?」とあれこれ詮索されるのは目に見えていた。
「で、どうせお渡しするならサプライズがいいかな……と思いまして。ちょうどいい場所が、ここくらいしかなかったもので。ムードがなくてすみません」
彼のサービス精神に、わたしはまたキュンとなった。ムードなんてなくたって、彼が知恵を絞ってわたしを喜ばせようとしてくれただけで、もう十分嬉しかった。