「もちろん、私も腹を括りますよ。――あ、会長に忖度(そんたく)しているわけではなくてですね。人事部長として、社員の将来を守らねばなりませんので」

「お二人とも、感謝します。ではこの件について、お二人には引き続き、被害に遭っていた社員のみなさんへの聞き取り調査をお願いします。なるべく、それと悟られないように。わたしの名前も出して、『我々は味方だ』って言えば、安心して話してもらえるでしょうから」

「了解しました」

「分かりました」

 二人とも快く頷いてくれたので、わたしは次の議題に移った。

「――では次に、この不祥事を起こした総務課・島谷照夫課長の処遇について話し合いたいと思います。こういう場合は一般的に、懲戒解雇が妥当だとは思うんですけど。わたしは彼に自主退職を勧めたいと思っています」

「解雇ではなく退職勧告……ですか」

 人事に関して強い権限を持つ山崎さんが、わたしの考えに眉をひそめた。

「別に反対はしませんが……」

「貴方が難色を示されるお気持ちは分かります。ですが、彼にもご家庭があるでしょう? 彼が処分を受けるのは自業自得だとしても、ご家族には何の罪もありません。彼の収入がなくなったら、ご家族が困るんじゃないかと思うんです」

「そういえば、彼には来年、高校を受験する息子さんがいると聞いてます」

「そうでしょう、山崎さん? ――それで、解雇処分でしたら退職金は出ませんけど、自主退職なら退職金が支払われますから、彼が再就職先を見つけるまでの間、ご家族も生活に困られることもなくなるんじゃないかと思うんです。――それに、彼自身の将来と、本当の反省を促すためにも、解雇ではなく退職勧告の方がいいと思うの」

「会長、それってどういうことですか?」

 ずっと黙ってメモを取っていた貢が、そこで口を開いた。わたしは嬉しくなって、学校の先生よろしく説明を始めた。

「いい質問ね、桐島さん。――解雇されたとなれば、彼には反省の気持ちよりも、自分をクビにしたこの会社への恨みの方が芽生えてしまうでしょう? それじゃ、この先いつまで経っても彼の意識は変わらない。彼が心から反省して、心を入れ替えてくれないと意味がないの。そして、彼に更生のチャンスを与えてあげたいのよ。誰にだって、やり直す機会は与えられるべきだと思うから。――甘い……かなぁ?」

「分かりました。確かに、会長のお考えは少々甘いかもしれません。ですが僕は、お優しい会長らしいなと思いますよ」

「そう? 桐島さん、貴方はどう思う? 貴方が島谷さんの解雇を望むなら、わたしも考える余地はあるんだけど」