「いえ、僕は異存ありませんが。――山崎さんはいかがですか?」

「私も特には。桐島くん、キミはどうかね?」

 わたしたち三人の意見は一致していたけれど、大事なのは彼本人の意思だ。彼がどうしてもイヤだと拒否するのなら、ムリに参加させることもないかとわたしは思っていた。無理強いすれば、それこそわたしがパワハラで彼をますます追い込むことになってしまうから。

「……どう? 桐島さん。貴方がどうしてもイヤだっていうなら、拒否してくれても構わないけど」

「いえ、大丈夫です。僕はもう解放された身ですが、今でも苦しんでいる人たちがいるなら、その人たちを僕も解放してあげたいですから」

 彼は承諾してくれて、そのまま会議の席に加わった。

「ありがとう! ――では、全員揃ったところで、改めて会議を始めます。議題は、今もなお総務課で続いているパワハラ問題の解決法と、同部署の島谷(てる)()課長の処遇についてです」

 わたしはメンバー三人の顔を見回し、口火を切った。その時にちらりと思い出したのは、前日に帰宅した後のことだった。

****

 ――わたしは帰宅してすぐにリビングへすっ飛んでいき、彼と恋人同士になったことを母に報告した。
 すると――。

「よかったわね、絢乃。というか、あなたたちさっき、門のところでキスしてたでしょう?」

「うん。……えっ!? ママ、どうして知ってるの!?」

 まさか見られていたとは思わなかったわたしは、ひどくうろたえた。別に悪いことをしたわけでもないのだけれど。

「私、さっきまで二階の書斎にいたのよ。そしたら、窓から偶然見えたの」

「偶然……。なんだ、よかった」

 母には覗き見の趣味なんてなかったので、偶然見られただけだと分かってわたしは少しホッとした。

「桐島さんは、ママに見られたらどうしようかって気にしてたみたいだけど。お願いだからママ、彼のこと怒らないでね?」

「どうして私が怒るの? 桐島くんったら、私のこと何だと思ってるのかしら。そんなことで怒るわけないのに。彼の絢乃に対する気持ちなんて、ずぅーーっと前からお見通しだったもの」

「えっ? ママ、知ってたの?」

 わたしは目を丸くした。母はいつ、彼のわたしへの恋心を知ったのだろう?  ――もしかしたら、半年前のパーティーの夜に彼と母が話していたのはこのことだったのだろうかと、わたしは何となく思った。

「まあねー。だって、私と一緒に仕事してる時にも、彼から『絢乃好き好きオーラ』がダダ洩れだったんだもの」

「…………」

 彼の想いはそんなに分かりやすかったのか。――わたしはただただ絶句していた。