「あっ、じゃあ僕が拭いて片付けますので。会長はお仕事にお戻りになっていて下さい」
「うん、ありがとう。お願いね。――そういえば、お兄さまは電話で何ておっしゃってたの? なんか、わたしの誕生日がいつかって訊ねられたんだけど」
彼は小声で話していたし、スピーカーフォンにもしていなかったし、そのうえ水音もしていたので、兄弟でどんな会話がなされていたのかわたしは知ることができなかったのだ。
「……会長の、お誕生日のプレゼントについて……ちょっと。すみません、これ以上のことは……」
彼の答えは要領を得なかったけれど、多分彼自身の沽券に関わることなのだろうと、わたしは察した。
「ふうん? 分かった」
一足先に会長室へ戻ると、パソコンに山崎さんの女性秘書からのメールが受信していた。
『先ほど会長にお話しした相談内容を、明日の会議に先駆けて村上社長とも共有しておくことにしました。
一覧にまとめて添付してありますので、ご確認をお願いいたします。 山崎』
「――これ、あのパワハラ案件の相談内容リストだわ……。えっ!? こんなにあったの!?」
わたしはその膨大な数を目の当たりにして、茫然となった。
山崎さんにはちゃんと資料を見せてもらったわけではなかったので、改めて自分の目で確かめると頭が痛くなった。
総務課に在籍している社員はざっと四十人。その中の三十六人が労務災害の申請を出していた。島谷課長からのパワハラが原因で、精神のバランスを崩したと。もしくは、体調に何らかの異常をきたしている、など……。
数自体にも驚いたけれど、その内容にもさらに驚かされた。彼が受けていたパワハラなんて、まだまだ生やさしいとさえ思えてしまった。もちろん、被害に大きいも小さいもないのだけれど。
あまりの事態に、わたしが頭を抱えているところへ、片付けを終えた彼が戻ってきた。
「――ただいま戻りました。……あれ? そのメールは――」
「あ、お帰りなさい。――さっきね、山崎さんの秘書の人が送ってくれたの。あの件の、相談内容のリスト。貴方も見て」
「……えっ? はあ。――うわー……、マジっすか……」
彼も言葉を失い、素の彼に戻っていた。
「僕も十分ひどい目に遭ってきたと思ってましたけど、あんなのまだマシな方だったんですね。まさか、こんなにひどい目に遭わされてた人が大勢いたなんて……」
「ホントそうよね。信じられない。こうなったらもう、とことんまで調べて、島谷さんがぐうの音も出ないようにしてやるんだから!」
わたしの中に、メラメラと闘志が湧いてきた。それは彼を守りたいという気持ちと、トップであるわたしが何とかしなければという使命感と、両方からくるものだったと思う。
「うん、ありがとう。お願いね。――そういえば、お兄さまは電話で何ておっしゃってたの? なんか、わたしの誕生日がいつかって訊ねられたんだけど」
彼は小声で話していたし、スピーカーフォンにもしていなかったし、そのうえ水音もしていたので、兄弟でどんな会話がなされていたのかわたしは知ることができなかったのだ。
「……会長の、お誕生日のプレゼントについて……ちょっと。すみません、これ以上のことは……」
彼の答えは要領を得なかったけれど、多分彼自身の沽券に関わることなのだろうと、わたしは察した。
「ふうん? 分かった」
一足先に会長室へ戻ると、パソコンに山崎さんの女性秘書からのメールが受信していた。
『先ほど会長にお話しした相談内容を、明日の会議に先駆けて村上社長とも共有しておくことにしました。
一覧にまとめて添付してありますので、ご確認をお願いいたします。 山崎』
「――これ、あのパワハラ案件の相談内容リストだわ……。えっ!? こんなにあったの!?」
わたしはその膨大な数を目の当たりにして、茫然となった。
山崎さんにはちゃんと資料を見せてもらったわけではなかったので、改めて自分の目で確かめると頭が痛くなった。
総務課に在籍している社員はざっと四十人。その中の三十六人が労務災害の申請を出していた。島谷課長からのパワハラが原因で、精神のバランスを崩したと。もしくは、体調に何らかの異常をきたしている、など……。
数自体にも驚いたけれど、その内容にもさらに驚かされた。彼が受けていたパワハラなんて、まだまだ生やさしいとさえ思えてしまった。もちろん、被害に大きいも小さいもないのだけれど。
あまりの事態に、わたしが頭を抱えているところへ、片付けを終えた彼が戻ってきた。
「――ただいま戻りました。……あれ? そのメールは――」
「あ、お帰りなさい。――さっきね、山崎さんの秘書の人が送ってくれたの。あの件の、相談内容のリスト。貴方も見て」
「……えっ? はあ。――うわー……、マジっすか……」
彼も言葉を失い、素の彼に戻っていた。
「僕も十分ひどい目に遭ってきたと思ってましたけど、あんなのまだマシな方だったんですね。まさか、こんなにひどい目に遭わされてた人が大勢いたなんて……」
「ホントそうよね。信じられない。こうなったらもう、とことんまで調べて、島谷さんがぐうの音も出ないようにしてやるんだから!」
わたしの中に、メラメラと闘志が湧いてきた。それは彼を守りたいという気持ちと、トップであるわたしが何とかしなければという使命感と、両方からくるものだったと思う。