「……分かったわ。ありがとう。パパにはわたしから話をしておく。わたしの言うことならパパも耳を貸してくれると思うから」

「はい」

 わたしはワガママで自己中なお嬢さまにはなりたくなかった。彼だってきっと、こんな提案をするのは心苦しかったと思う。それでも、父のことを思って言ってくれたから、わたしは素直に聞き入れることにしたのだ。

「――絢乃お嬢さん、デザート召し上がりませんか? さっき見た時、ビュッフェテーブルに美味そうなフルーツタルトがあったんですけど」

「そう言うってことは、ホントは貴方が食べたいんじゃない? 桐島さんって甘いもの好きなのね」

 わたしはからかったつもりだったけれど、それは図星だったらしい。彼は気恥ずかしそうに、頬をポリポリ掻いていた。

「ハハハ……、バレちゃいました? 実はそうなんですけど、男ひとりで食べるのは勇気が要るんで……」   

 父が倒れた後で不謹慎だったけれど、わたしは彼と一緒にいると何だか気持ちが(なご)んでいくのが分かった。
 やっぱりわたしは、この夜から彼に惹かれていたのだと思う。

「じゃあ……、わたしもお付き合いしましょうか」

 食事は喉を通らなかったけれど、スイーツは別腹だろうと、わたしも彼オススメのフルーツタルトを頂くことにした。

「――お嬢さん、どうですか? 美味しいでしょう?」

「うん、美味しい! これなら食べられそう」

 一口食べて、わたしは顔を(ほころ)ばせた。サクっとしたタルト生地の上に載っているフルーツはどれも瑞々(みずみず)しくて、カスタードクリームもコッテリしすぎていなくて、すごく食べやすいスイーツだった。

「ところで桐島さん。わたしのことを『お嬢さん』って呼ぶの、いい加減やめてくれないかしら?」

 わたしの名前は〝絢乃〟であって、〝お嬢さん〟という名前ではない。それに、〝お嬢さん〟という呼ばれ方は、特別扱いを受けているようでわたし自身がキライだったのだ。

「……すみません。分かりました。じゃあ……、〝絢乃さん〟ってお呼びしてもいいですか? ちょっと()れ馴れしすぎでしょうかね?」

 彼は提案してから、オドオドとわたしの反応を(うかが)っているようだった。

「うん、ぜひそう呼んで。馴れ馴れしいなんて思わないで? 貴方の方が年上なんだから」