母ローラが眠っている部屋はどこだろう。グレンの部屋から降りた時には、こんな通路はなかったような気がしたが、どこかの扉があの部屋に繋がっているのだろうか。

サラはそんなことを考えながら元いた部屋へと戻っていた。

「この柩には吸血鬼が眠っている。そのオルゴールの音を聞かせれば目覚めるだろう。きっと君を助けてくれる」

そうハンナに語りかけていたのはグレンの声だった。もしかしたらまだグレンがいるかもしれない。

「領主様、いらっしゃいますか?」

ハンナと離れたせいか先程まで心臓をしめつけていた恐ろしさはなくなっていた。

やはり占いのせいでハンナと同調しやすくなっていたのかもしれない。

サラはふと「吸血鬼になりたい」そう言ったハンナの心の中を探るように、自分の中に残ったハンナの恐れに目を向けてみた。

ハンナが見たグレンはどんな顔をしていたのだろう。

瞼に浮かぶのは寂しさと怒りの混ざった表情だ。サラはグレンの笑った顔が好きだ。揶揄うようにいたずらっぽく笑う眼差し。

その奥にこんなにも冷たい光を隠していたのだろうか。

燭台を掲げ、部屋の中をぐるりと照らす。ふとその先に誰かの顔が浮かび上がりサラは驚いて思わず声を上げそうになった。

蝋燭の光を眩しそうに見ている青白い顔。

グレンに良く似ているけれど、グレンではない。

「誰……?」

サラはその人物の足元へと目を向ける。

その体はまだ半分柩の中だった。